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BLUE MOMENT18

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「なんでもないよ、アーチャー」
「そうか」
 エミヤはランサーのことなど目に入っていないようで、平然と士郎の分の夕食をテーブルに置いた。
「シロウ! てめ、何しやがん――」
「焼きそば、要らないのか?」
 勢い込んだランサーに士郎は横目で訊く。
「う……」
「くく……、てめぇの負けだ、槍持ち」
「くそっ! 焼きそば、約束だぞ!」
「わかったー」
 ひらひらと手を振る士郎をエミヤは静かな目で見据えている。
 きっと士郎はエミヤに問い質されるだろう、と予想しながら、立香は助け舟のつもりで話題を変えようと試みた。
「士郎さんは、みんなクラス名で呼ぶんだね?」
「ん? うん、まあ、最初からそうだったから……。こんなにサーヴァントはいなかったしな、俺が経験した聖杯戦争って」
「エミヤはいいの? アーチャーで」
「別段、問題はないが?」
「名前呼んでほしいとか、ないの?」
「名前というが、こいつも衛宮だ。その方がややこしい」
「そうだな、ややこしい」
 エミヤの言に士郎が同意する。
「そっか、それもそうだね」
 立香も同意して、いつものように食事の時間が再開された。が、
「ところで士郎、惚気がどうの、と言っていたようだが?」
「ってめ! 聞こえてんじゃねーか!」
 士郎がエミヤに食ってかかるが、エミヤは相手にしない様子で、早く食べろ、と促す。
「この……っ」
 上気した頬もそのままに食事をはじめた士郎に、
「その話、あとでじっくり聞かせてもらおうか、ベッドの中でな」
「っ!」
 二の句の告げない士郎に、エミヤは静かに食事を続けている。
 目の前で惚気るどころかイチャつく二人に立香は思う。
(この人たち、周りに他人がいること、忘れちゃってるよね……)
 隣にいるマシュと顔を見合わせ、苦笑いを浮かべていても立香は、拗れに拗れていた二人がやっとまとまったことを、喜ばしい、と諸手を上げて祝いたいのだった。



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

「ふぅ、うまー……」
 紅茶を一口飲んで、温まった息を吐く。
 香りが鼻腔を通り、脳まで紅茶色に染まりそう、なんて、バカげたことを思う。
 あれから――たくさん泣いて、散々自分のバカさ加減に悪態をついて、アーチャーを困らせた(かどうかはわからない)あと、このカルデアで過ごす俺は、ずいぶんと緊張感がない。
 有り体に言ってしまえば、楽になった、ってことだろう。
 こんなことを大っぴらに言えば、キャスターのランサーあたりには、ゲンキンな奴だなって呆れられるかもしれないけど、とにかく、俺の心持ちはずいぶん変化した。
 藤丸ともいろんな話をしている。俺の失態も愚かさも何もかも、隠す必要のないことだってことに気づいて、訊ねた藤丸の方に気を遣わせてしまうくらいにあけすけに話している。横で聞いてるアーチャーは、ちょっと額を押さえてため息をついたりしていたけれど……。
 俺は思っていたよりも自分の話を誰かに聞いてほしかったみたいだ。藤丸もマシュも、俺の話を神妙な顔で聞いてくれている。そんなにかしこまらなくていいっていうのに、根が素直で優しいんだろう、いっこうに俺に辛辣な感想などは聞かせない。
 まあ、若い二人に年嵩の俺を批判しろったって無理な話だな。そういうの、不得手な奴だっている。どう見繕っても、二人とも得意そうじゃない。
「――、――い、士郎」
「え? あ、なんだ?」
「……先ほどから、何度か呼んでいるのだが?」
「あ、っと、ごめん。ちょっと考えごとを――」
「どのみち、マスターのことだろう」
「あれ? なんでわかった?」
「…………」
「な、なんだよ……?」
「はあ……。まったく……」
「な、なんで、ため息とか、」
「風呂へ行け」
「は? なんで、風呂?」
「いいから、風呂に入れ」
 アーチャーが淹れてくれた紅茶を味わっているってのに、カップを持ったまま立たされ、浴室の方へと誘われる。
「なんだよ、まだ紅茶が、ちょ、おい、押すな」
 アーチャーは、俺の背中に手を添えて浴室へと促す。
 なんだよ……、風呂に入れって……?
 あ、もしかして、なんか、臭うのか?
 自分の腕を鼻先に持ってきて、袖のあたりを嗅ぐ。
 洗濯洗剤の……、いや、柔軟剤か、それしか匂わないけど?
 アーチャーには鼻につくような臭いが感じられるのかもしれない。
「さっさと、風呂に入れ」
 いつの間に準備をしてくれていたのか、浴室の扉を開けて指さすアーチャーは静かに言った。行動は急かすのに、口調は冷静。言動が一致していない違和感が半端ない。
「わかったよ、入るから」
 言えば、アーチャーは納得したように頷く。
 それほど遅くはない時間だけど、どのみち風呂には入る。他に用事があるわけでもないから、アーチャーの言に従っておこう。
(なんだか俺を風呂に入れることに意気込んでるし……)
 妙な意気込みだとは思うけど、俺も意固地になる必要もない。素直に風呂に入る気になれば、まだ半分残った紅茶のカップはアーチャーに引き取られ、手近の棚に置いていた寝間着を取ろうとすれば、先に奪われてしまった。
「これは必要ない」
「ん? そう?」
 別の寝間着を投影したんだろうと思って、疑うことなく浴室に入る。
「あれ? アーチャー、なんか、用?」
 いつもなら扉の向こうにいるアーチャーが俺の背後にいる。服を脱ぎつつ訊いても返答がない。
(なんだろ?)
 もしかして、前に食堂で言ってたこと、まだ気に食わないんだろうか?
 あの後、確かにベッドの中で散々説明をさせられた。惚気ているんじゃない、俺は事実を言ったまでだって。
 そしたら、なんだかむっとして(暗いから表情はわからなかったけど雰囲気がそうだった)背中を向けてしまったんだけども……。
 いつも俺を抱き込んでいたのに背を向けたままでいるから、なんだか不安になってアーチャーの背中に抱きついたんだったか。
(我ながら恥ずかしいことやったな……、うん……)
 結局、朝起きたらアーチャーに抱き込まれていたんだけど……、なんだったんだ、あれ?
(惚気とかじゃないって言ったのがまずかったのか……?)
 ただの事実じゃないか。アーチャーが俺の世話をしているのは本当のことだ。嘘じゃないんだからべつに機嫌が悪くなるようなことでもないはず……。
(でも、アーチャーはよくわからないこと言ったりするしなぁ……)
 同一の人間だったはずなのに、俺の考えがアーチャーの考えと完全に一致するかといえばそうじゃない。アーチャーはどうだか知らないけれど、俺にとっての、アーチャーは俺とは別人という認識になっている。
(でなきゃ、好きだとか、思わないし……)
 ぶつぶつと胸の内で思いながら、このあり得ない状況に、今ごろ自分自身にため息をつきたくなってくる。なのにちょっと顔が熱くなってしまったり……。
「士郎……」
「うん? なんっ、うわ! な、きゅ、急に、なに?」
「なに、とは……、酷いな、恋人に向かって」
「だ、だって……」
 後ろからいきなり抱きつかれたら、誰だってびっくりするのは当たり前じゃないか!
「う、ちょ、ちょ……っと、」
作品名:BLUE MOMENT18 作家名:さやけ