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彼方から 第三部 第四話 ~ 余談 ・ エイジュ ・ アイビ

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「キンキンした声で喚くな、バンナ」
 命を受けるために、手段を選んではいられない。
 些細な理由であるかもしれないが、
「いいだろう、確かにおまえの言う通りだ」
 命ぜられるのであれば、それで良いのだ。

 ――見てなさい……

 ワーザロッテは、力を失った者になど、興味の欠片もなかった。
 だが、確かに、ノリコの顔を知っているのはこの中ではバンナのみ。
 別に、手当たり次第に娘を捕まえて、『ノリコ』であるのかどうか確かめれば済むだけの話しなのだが、バンナが共に行けば、その手間が省ける……それだけのことだった。

 ――この恨み晴らして……

 ――もう一度
 ――返り咲いてやるっ!!

「さあ! 行けっ!!」
 ワーザロッテの命と共に、五人は動き出す。
「ゼーナの家へっ!!!」
 『ノリコ』を捕らえる為に。
 生贄として、黙面に捧げる為に。
 より強大な力を、得る為に――その為だけの、為に……


第三部 第五話に続く


          *************

※ ここから、オリジナルキャラ【エイジュ】の話しとなります。
   本編の登場人物たちと再び合流するまでの間の話しを、描きたいと思っています。
   とりあえず、本編と並行して書いては行きますが、本編とは時系列が異なっていますので、予めご了承ください。

          *************

 〜 余談 ・ エイジュ ・ アイビスク編 〜

 第一話

 夜分遅く、エイジュが訪ねて(戻って)来た日から二日後の昼下がり――

「ご無事で何よりです、クレアジータ様」
「あなたが二人を私に付けてくれたのですから、無事なのは当たり前ですよ、ダンジエル」
「中央の方はどうでしたか?」
「相変わらずです……私の説を糾弾するのに、終始明け暮れていましたね」
「そうですか……」
「ところで、私の留守中に、何かありましたか?」
 玄関で迎えてくれたダンジエルに、クレアジータは落ち着いた温かみのある笑みを見せ、差し出された手に自身の上着を乗せると、そう、訊ねていた。
「エイジュが、戻ってきておりますよ」
 屋敷の中へと歩を進めるクレアジータの背中に向けて、ダンジエルは柔らかな笑みを浮かべながら、そう、報告する。
「え?」
 少し、驚きを含んだ瞳で、振り返るクレアジータ。
「本当に? おじいさま!」
「エイジュが戻って来ているの!?」
 思わず大声を出しながら、慌てて屋敷の中に入ってきた二人……
 ウェイとカタリナが、まるでダンジエルを責めるかのように、詰め寄ってくる。
「これ、クレアジータ様の前でそんな大声を出して……落ち着きなさい二人とも」
「あ……」
「ご、ごめんなさい」
 窘められ、頬を染める二人を見て、クレアジータはつい、笑い声を零している。
 その声に釣られ、三人からも笑みが零れる。
「それで? エイジュは今、どこにいるのですか?」
 少し落ち着いたところで、自室のある二階への階段に向かいながら、クレアジータはエイジュの居場所を訊ねていた。
「恐らく、書庫に居ると思いますよ」
「……? 書庫に?」
 ダンジエルの意外な返答に、クレアジータは怪訝そうに首を傾げ、立ち止まり、振り返る。
「ええ」
 笑みを浮かべたまま頷き、
「戻って来てからの、この二日間。寝る時以外はずっと、書庫に入り浸っておるのですよ」
 そう言って、ダンジエルは少し心配そうな瞳をクレアジータへ向けた。

          ***
 
 書誌を陽の光で傷めぬよう、窓には薄手のカーテンが常に引かれている為、書庫はいつも薄暗い。
 エイジュは何冊かの書誌を手にすると、書庫の一角に置かれた長机へと、歩いてゆく。
 長机は、五・六人くらいなら余裕で座れるだけの幅と奥行きがあるのだが、エイジュが持ち出した何十冊もの書誌で、天板の半分ほどが埋まっていた。
 新たに持って来た書誌を重ねて置き、内の一冊をパラパラと中身を確かめるように軽く捲った後、エイジュは丁寧に、他の書誌も中身を確かめながら、時系列順に並べ始めた。
 クレアジータからの依頼を受け、自身が書き留めた、世界各地の御伽噺や伝承――怪異談や言い伝え等々……
 そして、怪物や化物退治の詳細が書き込まれた、書誌を……

 何かに気が付いたのか、彼女は不意に手を止めると、書庫の入り口に眼を向け、
「どうぞ、開いているから……」
 と、扉に向けて、声を掛ける。
「あたしを驚かすつもりだったのかしら? 足音を忍ばせてくるなんて……」
 書誌を手にしたまま、エイジュは少し笑みを浮かべ、ゆっくりと開いてゆく扉を見やっている。
「やはり、君には敵いませんね……」
 扉の向こうから顔を覗かせたのは、苦笑しているクレアジータ。
「おかえりなさい、クレアジータ……悪いけれど、勝手に書庫に入らせてもらっているわ」
「ええ……構わないですよ」
 エイジュの断りに頷き、彼は扉を開けたまま、彼女へと歩み寄ってゆく。
「しかし、珍しいこともあるものですね、君が、書庫に入り浸っているなんて……」
 長机に置かれた、何十冊もの書誌に眼をやり、
「どういった風の吹き回しですか?」
 と、微笑んでくる。
「……そんなに、珍しいかしら?」
「ええ」
 微笑んだまま即答してくる彼に、エイジュは少し驚いたように眼を見開いた後、はにかんだ様な笑みを見せた。
「それに――ダンジエルが心配していましたよ、この二日、君がここに入り浸りっぱなしだとね」
「ダンジエルが?」
 エイジュは捲りかけていた書誌を閉じると、そのダンジエルが置いて行ってくれた、軽食が乗せられたテーブルに眼を向けた。
 二脚の椅子が置かれた、素朴な風合いの、木の、円いテーブル。
「悪いことをしたわ……彼には随分と、気を遣ってもらっているのに……」
 書誌を長机に置き、溜め息と共にテーブルに歩み寄ると、軽食の上に掛けられているナプキンを外す。
 艶やかな華の絵があしらわれた陶器のポットはすっかり冷たくなっており、共柄の皿に乗せられたサンドイッチは、パンが半分乾きかけている。
「やれやれ……これは一体、いつからここに……?」
 テーブルに着き、冷め切ったお茶をカップに注ぎ入れながら、半分乾きかけたサンドイッチを口に運ぶエイジュ。
 彼女と同じテーブルに着きながら、クレアジータも一緒になって、ダンジエルお手製のサンドイッチを口に運び始めた。
「多分、昼食として、持って来てくれていたと思うのだけれど……悪いわね、後始末、手伝ってもらって……」
「いいんですよ……しかし、昼食ですか――もう、三時ほど、過ぎていますよ」
「そう……もうそんな時間なの……」
 彼の言葉にもう一度溜め息を吐き、エイジュはカップのお茶を一気に飲み干すと、そのままクレアジータの前に置く。
 何のつもりかと、首を少し傾げるクレアジータの眼の前で、エイジュはお茶を注ぎ入れていた。
「嫌でなかったら、どうぞ」
 そう言いながら、いつもの――小首を傾げた笑みを見せる。
 何が『嫌でなかったら』なのか――と、クレアジータはついつい、意図を探るかのように、エイジュを見やっていたのだが……