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その先へ・・・4

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(3)


「……」
「……」
突然二人っきりにさせられてしまったアレクセイとユリウスは、互いに目も合わせられず押し黙ったままだった。
狭い空間で二人っきりになったのは、再会後初めて。
しかもここはユリウスのベッドルーム。意識しないというのが無理な話だ。
「よく……行くのか?」
「えっ?」
沈黙に耐え切れなくなったアレクセイが照れ臭そうに話し始めた。
「上の階、食事を届けに行っていたんだろう?」
「あ、うん。前はガリーナが行ってたんだけど、最近はぼくが行くんだ。小さな女の子とお母さんの家で、お母さん……マルーシャって言うんだけど、体が弱くて最近つらそうで……。ガリーナが作った食事を時々おすそ分けに行くんだ。女の子……ジーナがとっても偉くてマルーシャの代わりに一生懸命家事をやったり、料理を作ったりしているんだけど、やっぱりまだ幼いから心配で……。ガリーナも気にしているんだよ」
「父親は?」
「ジーナが生まれる前に亡くなったって。ずっと二人で暮らしているって聞いたよ」
アレクセイはユリウスの生い立ちを思いおこした。
「多分……おまえの生い立ちに似ているんじゃないか。その母子は」
「えっ!そうなの?」
ユリウスの瞳が大きく見開かれた。
「ああ。レーゲンスブルグのアーレンスマイヤ家に迎えられる前は、親子二人フランクフルトで暮らしていたと聞いた」
「フランクフルト……。どうしてぼくはレーゲンスブルグに?アーレンスマイヤ家に迎えられるって、どういう……?」
「……おまえの母親が、アーレンスマイヤ氏……おまえの父親の昔の愛人だったらしい。おまえは15になるまフランクフルトで母親と二人で暮らしていたが、正妻に男子がいなかった為に跡取りとして迎えられたと聞いた」
ユリウスから直接聞いた訳では無かった。
当時、あの町中の誰もがその噂でもちきりで、おせっかいな下級生や同級生などから知りたくも無い話を何度も聞かされた。どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか判らないうわさ話に、当時はうんざりしていた。
「そうなんだ。ぼくはフランクフルトでかあさんと二人で暮らしていたんだ……。でも、どうして男子って?」
「……さあ、それはおれにもわからない」
「そっか……。ぼく、前にかあさんの事はなんとなく思い出せたんだ。優しいかあさんがいて、大切な友人がたくさんいて……とても古い町で暮らしていたって。そこがレーゲンスブルグなのかな?」
「おそらくそうだろうな。は……なんだか懐かしいな」
思いもかけず懐かしい青春の日の思い出がよみがえる。
古い石畳、荘厳な教会、色鮮やかな木々、柔らかで澄み渡った空気……。
友と騒ぎ、学び、豊かな音楽に身をゆだね、生涯唯一の安息の日々。

そして、輝く髪をした『エウリディケ』。

眩しい金色の髪を揺らして、いつも自分の姿をみとめるとまっすぐに駆け寄ってきた下級生。
碧い瞳がまぶしくて……逃げていたのに、いつの間にか捕らわれて……、今じゃこのザマだ。

「クラウス!」

綺麗に響く声で名前を呼ばれるのが嬉しかった。
どれだけ本当の名前を呼んで欲しかったか。
どれだけ本当の事を告げてしまいそうな衝動を抑えて来たか。

懐かしい青春の日々に別れを告げ、『エウリディケ』にも、もう二度と会えない、会わないと思っていた。
それなのに、彼女はここにいる。
手を伸ばせば彼女はすぐ届く所にいる。
もうお互い何も隠す事は無い。
すべてをさらけ出し合い、彼女を抱き留めれば良いだけだ。

アレクセイの心は揺れ始めた。


「……ぼくのかあさんは、お父様の愛人だったんだ……」
アレクセイから聞いた自分の境遇に、ユリウスは少なからずショックを受けている様だった。
「おれの両親も正式な夫婦ではなかった」
「そうなの?」
「ああ。兄貴の母親……ミハイロヴァ夫人が亡くなった後、親父とおふくろは恋に落ちたそうだが、祖母の猛反対にあって結局正式な結婚は出来なかった。二人の間に生まれはおれは、親父が亡くなり、後を追うようにおふくろが亡くなるまでミハイロフの家に迎えられる事はなかった。おれもおまえと同じで親子二人で身を寄せ合って暮らしていた」
「そうなんだ……。不思議だね、ぼくたち似た生い立ちだったんだね」
「ああ、そうだな」
ユリウスが少し明るく微笑んだのを見て、ホッとした。
「親父は時々会いに来るぐらいで、おれはあまり覚えていない。もっぱらおふくろとの二人暮らしだった。周りは両親が揃っているヤツも多く、そんな様子をみると寂しく思う事もあったが、おれはおふくろと二人でとても幸せだった」
「アレクセイのおかあさま……。ねぇ、どんな人だった?」
「そうだな、体が弱くて臥せる事が多かったが、肝がすわってたな。おれはやんちゃで、いたずらばかりして近所のガキどもの親が怒鳴り込んできたりして迷惑をかけたが、おふくろはまったく動じなかったな。いつも笑ってくれていて、元気でいてくれる事が一番だ、と言っていた。おれはそんなおふくろの笑った顔が大好きで、大事だった」
「素敵なおかあさまだね。羨ましいな……」
寂しげなユリウスを目の当たりにすると、アレクセイの心がチクリと痛む。
「……おまえも、母親を大事にしていたぞ。……そうだ!一度だけお前の母親に会った事があるな」
「本当に?」
「ああ。カーニバルの日にお前を家に送っていった事があるんだ。その時に会ったな。お前によく似た、優しそうな母親だったぞ」
「……そうなんだ。かあさん、ぼくに似ているんだ……。じゃぁ、鏡を見ればかあさんに会えるんだね!」
こぼれる涙を指先で拭い、ユリウスはアレクセイをじっと見つめた。
「アレクセイ、ありがとう」
「ん?」
「ぼくの生い立ちを教えてくれて。かあさんの事教えてくれて。……あなたが覚えてくれていてうれしい」
頬を染め、見惚れてしまう優しい笑みのユリウスが痛々しい。
思わず手を伸ばし、引き寄せそうになる。
……しかし、その手をこらえたアレクセイは、ユリウスの前から逃れ窓辺へと歩き出した。

窓から見える雪景色を見て小さく息を吐き、気持ちを落ち着かせた。
「……ゆうべは、すまなかったな。……何も言わずに帰ってしまって」
押し流されそうな感情の波を 話題を変えることで堪えようとた。
「あ……、ううん。ぼくの方こそ!……ごめんなさい」
「おまえが謝る事じゃない。今のおまえには、あの邸での記憶がすべてだと分かっているんだ。それなのに、おまえがそれを思い出すたびにおれが勝手にイラついてしまって‥‥‥悪かった」
ユリウスはちょっと驚いた顔をし、そっと伺うようにアレクセイを見た。
「あの……それって……、妬いてくれてる……の?」
「ばっ!お、おまっ!妬くって……!」
アレクセイが慌てる姿を目の当たりにして、ユリウスは嬉しそうに笑った。
「な、なんだ?」
「そんな風に思ってくれるなんて嬉しい。なんだかぼくのことをさけているみたいだったから」
昔と変わらない碧い瞳がまっすぐに見つめてくる。
アレクセイは、昔からこの瞳に弱い。
何もかも……自分の心の奥底に隠した本当の気持ちを見透かされてしまいそうな真っすぐな瞳。
すべてを告げてしまいそうで、ユリウスが女だと解ってから、さけ続けてきた瞳だ。
作品名:その先へ・・・4 作家名:chibita