その先へ・・・4
案の定……。
「……お前が話したいのなら、話してもかまわない」
心にもない事が口をついてしまった。後悔したがもう遅い。
「えっ?でも……」
「……、あの邸で起こった事が、今のお前のすべてだろう」
「うん、そうだけど。いい……の?」
ユリウスが誰の事を言っているのかが……わかる。
『あの男』の事を聞きたいわけあるか!
と一喝したかったが、懸命に堪えた。
どれだけレオニード・ユスーポフに対してこだわっているんだ、と自分で自分に呆れる。
ユリウスが言う様に、『妬いている』のかもしれない。
……彼の庇護がなければ、今目の前にユリウスはいなかったろう。
記憶を失ったユリウスが頼るのも仕方のない事だ。
その事に感謝は、する。
だが、許せるのはそこまでだ。
……と、ユリウスに言えたらどれ程いいか……。
アレクセイは本心を押し隠す様に、ぼそっとつぶやいた。
「……今のおまえを知りたいからな」
アレクセイの心の内が分かるはずもなく、ユリウスはパッと顔を明るく輝かせた。
そんな彼女とは反対に、アレクセイの心はますますは痛む。
「アレクセイ!ぼくも知りたい!あなたの事やぼくの過去。そしてぼく達の事。さっきぼくの生い立ちやあなたの生い立ちを教えてくれたように。かあさんの事を教えてくれたように。もっともっと知りたい!教えてくれる?」
ユリウスがアレクセイのもとに近寄った。
間近で見るユリウスの碧い瞳から、目が離せなくなる。
「……ああ、記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないしな」
思い出したらドイツへ帰るんだ……
とは言えなかった。
そんな複雑な気持ちを知るはずもなく、ユリウスは輝く瞳でアレクセイを見つめた。
アレクセイもユリウスを見つめる。
二人の間に再び沈黙が訪れた。
『おまえにはユリウスが必要だと、おれは思うよ。なぁアレクセイ、おまえはどうしたいんだ?』
ふいに、以前ズボフスキーから言われた言葉が蘇った。
ユリウスが必要……。
おれにはユリウスが必要。
おれは、こいつをどうしたいんだ?
本当は……
「ユリウス、おれ…は……」
アレクセイはユリウスを見つめたまま彼女の腕を掴み、少し引き寄せた。
「あっ、ぼっ、ぼく……お茶を持ってくる!……アレクセイ、飲むでしょ?」
頬を真っ赤に染めたユリウスは、はじかれた様にアレクセイの手から逃れ、なかば逃げるように部屋から出て行った。