二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

その先へ・・・4

INDEX|6ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 


事務所近くにある馴染みのカフェだった。
ズボフスキーはコーヒーを2つ頼み、アレクセイにタバコをすすめた。
タバコを燻らせながら互いにそれとなく周りに目を配り、怪しげな人影が無いと確認し、ズボフスキーはそれでもいくらか小声で話し始めた。
「なぁ、そろそろちゃんと話してくれてもいいんじゃないか?」
「何をだ?」
「おまえとユリウスの事だ。おれは彼女を預かる時、ドイツへ亡命していた時に通っていた学校の後輩だとおまえから説明されただけなんだがな」
「……事実だ」
「まぁ、……それだけじゃ無い事はすぐ分かったがな。だが、やっぱりおれはお前の大事な彼女を預かる以上、ちゃんと話しを聞きたいと思ってな。お前と彼女の事やお前の気持ちなんかを。ガリーナもえらく心配している」
ズボフスキーはあくまでも温和だ。しかしその口調とは裏腹にアレクセイの痛い所をついてくる。
一つ深いため息をつき、たばこを灰皿に押し付けたアレクセイは重い口を開いた。
「……そうだったな。あんたやガリーナには言っておかなくちゃならなかったな。すまない」
ちょうどテーブルにコーヒーが運ばれてきた。
ここのコーヒーは熱すぎる事で仲間内では有名だった。アレクセイはカップのふちを持ち、熱すぎるコーヒーを少しだけすすった。
「……あんたに言った通り、あいつはおれの後輩だった。ただ、その学校は男ばかりの男子校だ。女が男として転入してくるなんて普通じゃない。当たり前だが、学校側や学生たち、家族、周りをすべて欺いていた。あいつは、男子学生ユリウス・レオンハルト・フォン・アーレンスマイヤとして必死に真実を隠していた。おそらく、生まれた時から男として生きてきたんだろう」
「いったいどうして彼女はそんな事に?」
「……あいつが転入してくる少し前、町で1、2を争うの名家に昔の愛人とその息子が乗り込んできた、と町中大騒ぎになった。その息子っていうのがユリウスだ。なぜ母親は、娘を御曹司として届けたか……」
「……財産目当てか」
「まぁそんなところだろう。本当の所はおれにもわからん。最後まであいつは本当の事をおれに言わなかったからな」
夏の池に浮かべたボートの上でも、晩秋のミモザの邸でも、ユリウスから真実を聞き出すことは出来なかった。
アレクセイの腕の中に確かにとらえた筈なのに、彼女はいつもスルリと身をかわして逃れて行ってしまう。
自分の腕から逃げ出し、走り去るほっそりとした背中ばかりを見ていた様な気がする。
「罪深い母親だな。そんなものの為に、娘の一生は台無しじゃないか」
「ああ。だが、それでもあいつは母親をえらく大事にしていたよ」
アレクセイは胸元から取り出したタバコに火をつけ、ゆったりと燻らせた。
「転入してきたばかりの頃……、あいつはなにかというとすぐ他の学生と騒ぎを起こし、教師にも目をつけられる程で見ていてハラハラしていた。だが実は自分からけしかけた事など一度もなく、いつも自分の友人や大切なモノを守る為だった。近寄ってくる学生に対しては常に虚勢をはり、自分の周りに透明な壁を張り巡らせ、誰も自分の内側に踏み込んで来られない様にしていた。少し……おれに似ていると思った」
「ほう……それで?」
「男だと言う割には華奢な身体つきで、あの美貌。周りの学生の視線を一身に浴びていた。その容姿からか、あるいは秘密を抱えていたからなのか、おれはあいつに冷ややかなものを感じていたんだが、実は情に厚く、涙もろく、情熱的で……。おれは強烈に魅きつけられていった。男なのに……な」
「……それで?」
「……いつの頃からか、あいつの周りの透明な壁が、おれといる時は取り払われているのに気が付いた。コンビを組んでいた上級生や、あいつの『相棒』にも許していないのに、だ。おれはやつらに対して妙な優越感を持ったりしていた事もあった。そんな時、いつも気が付くんだ。何考えてやがる!あいつは男だぞ。男のくせになんでこんな……!とな。自分を笑い飛ばした事が何度もあった」
「それで、ユリウスが女性だといつ分かったんだ?」
「ん?ああ、あいつと出会ってから半年程過ぎた頃だったか……。おれの失態からファシスト・ギャングどもにめんがわれてしまってな、その場に運悪くあいつもいた。おれはあいつを連れて街を逃げ回ったんだ。その時あいつはケガをしていて、その出血がひどく失神してしまって……、傷の手当てをしたり介抱している時に……な」
「そうか……。で、おまえ、どう思った?」
「おい!!まだ言わせるのかよ!」
自分の中のユリウスに対する想いを再確認させる為だと分かっているだけに、アレクセイは苛立った。
けれどズボフスキーは譲らない。
「おれには聞く義務があるとさっき言ったじゃ無いか。おれとガリーナはユリウスを預かっている。いわば父と母みたいなもんだ。親には聞く権利があると思うが……」
真剣に訴える表情の裏に笑みが見える。アレクセイは頭をガシガシかいて、いくらか冷めたコーヒーを飲んだ。
「ったく、どこの世に娘への恋心聞きたがる男親がいるって言うんだよ!男親っていうのは、本来娘をかっさらいにきた男を排除するってぇのが相場だろうが!」

しまった!

後悔したが遅かった。まんまとズボフスキーの口車に乗せられてしまった。
ワハハ‥‥!大声で笑ってしまったズボフスキーは慌てて笑いをおさめ、ニヤニヤしながらアレクセイに言葉を促した。
「そうか、かっさらいに来たか!よし!聞いてやるぞ。話せ!『未来の息子よ』!」
バツの悪そうな顔をして横を向いたアレクセイだったが、短くなったタバコを灰皿に押し付け一息つくと観念して話し出した。

「あの時の事は生涯忘れられない。本当に驚いた。女がなぜ……と。だが、妙に納得したのも事実だ。ああ、そうか。やっぱりな、と。そして……」
「そして……?」
アレクセイはカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
今まで以上に真剣で、今まで見せた事のない熱っぽい瞳をズボフスキーに向け、はっきりと言った。
「おれの……運命の相手だ、と思った」
その言葉の裏に、ズボフスキーには話せない真実を隠した。
「そうか……。おそらくおまえは無意識のうちに彼女が女性だとわかっていたんじゃないか?だから魅かれた」
「……多分な。……そして気づいちまったんだよ。あいつが、おれにとってとんでもなく特別だってな」
「想いは交わしたのか?」
「……ロシアへ戻る時、ドイツでおれを追ってきたあいつに、女だと知っているとは告げた。……それだけだ」
「大きな秘密を抱えていて彼女だって苦しかったろうに。お前が支えてやることはなかったのか?」
「支えてやる?は……おれはロシアへ戻る身だぞ!いずれはあいつとは別れなければならない。あいつが女だと解ってからは、あいつをずっとさけていた。支えてやるどころか、……おそらく傷つけた」
「そうか」
二人の間にしばらくの沈黙が訪れた。ズボフスキーは両手で顔を覆い、しばらくそのままでいた。
「お前たち、危険な目にもあったんだな。だがその事があって、お前は生涯をかけて愛する女性を得たんだ」
作品名:その先へ・・・4 作家名:chibita