先生の言葉 全集
20.酔客
……ちょっと、飲みすぎですよ。あーあーあーあー、人の部屋でげーげー戻しちゃって。
昔はちゃんとまじめに冒険していたのに、迷宮深部に入った途端、飲んだくれになっちゃったんだよなあ、この人たち。まあ、深層のモンスターは強いので(私みたいな奴もたまにいますが)、ストレスも溜まりますよねえ。常に死と隣り合わせの毎日では、お酒に逃げるのもわからなくもないです。
とは言ってもですよ。限度がありますよ。何で私の部屋まで来て、6人全員で飲んだくれているんですか。ねえ、ちょっと、起きて下さいよ。寝るんなら城帰って宿屋で寝た方がいいでしょう? まあ、どうせ皆さん、宿屋に行っても馬小屋で寝るんでしょうけども。
え、何ですか?「ここにいると、落ち着くんだよなあ……」って、一応私、友好的とはいえモンスターなんですよ。もう少し緊張感を持っていないと、さすがに寝首をかかれちゃいますよ。
「だってさぁ……、下層はマップもよくわかんねえし、すぐ首飛ばされちゃうし、ブレスは半端ねぇし……、あんたを倒しまくってたあの頃に戻りてぇよぉ」
ほら、いい加減に起きてくだs……。
「あんたには失礼だってわかってるけどよぉ。ここにいると、冒険してて一番楽しかった頃を思い出すんだよなぁ。あんたが相手なら常に連戦連勝で誰も死ぬことなんかなかったし、宿屋帰ればレベルバリバリ上がってくし、レベル上がっても能力下がることなんてなかったしさ……」
あの、そろそろいい加減に……。
「それが今じゃなんだよ、やっとこさ経験かき集めてレベル上がっても能力は落ちるばかりだし、その上ドレイン喰らって吸い取られちまうんだぜ……。もう最奥の魔術師とか近衛兵とかどうでもいいよ。酔っ払ってただただぐだぐだしていてえよ」
……仕方ないですね。じゃ、酔いが醒めるまで、少しゆっくりしててください。でも吐くのだけはダメですよ。
「そうなんだよな。優しいのはいつもあんただけなんだよ。酒場のマスターも宿屋の親父も冒険者に厳しくてさぁ。寺院の坊主や商店の親父は金のことしか考えてねえし。冒険者なんてかっこよく見えるけどさぁ、味方なんかどこにもいやしねえんだよなぁ」
…………。
「だからさ、俺らが夢を見られるのはここだけなんよ。というわけで、おやすみ」
……この話は聴かなかったことにしておきましょうか。私にできるのはそれぐらいです。それじゃ、酔いが醒めるまで休んでから、お城にお戻りください。