先生の言葉 全集
17.司教の決断
どうしました。一人でこんなところに来て。貴方、忍者じゃないですよね。そんな全裸に近い格好でこんな場所にいては危ないですよ?
死にたいから良いんだ? まあ、確かにこの迷宮は死のうと思えばすぐ死ねる場所ではありますけども、そういうこと言うのはやめておきしょうよ。
……あぁ、貴方、司教さんなんですか。それはそれは。でも、司教なんて一番自殺とかしちゃいけない職業じゃありませんか。そんな立派な方が死にたいだなんて、いったい何があったんですか。お役に立てるか解りませんが、遺言代わりに私に話してみませんか?
ふむ。うーん。なるほど。パーティに入れてくれない上に、アイテムの鑑定を強要される……。失敗しても呪いをとくお金をくれないので、もう残り一個しかアイテムが持てない……。これじゃ飼い殺しだ、と。
うーん。それはちょっとひどいですね。清貧に生きた偉い司教の方も歴史上にはいらっしゃいますが、さすがに限度というものがあります。せめて鑑定で浮いたお金をいくらか融通してくれれば良いのですがねぇ。
いっそのこと残り一個のアイテム枠で鑑定結果を偽って、それを売り飛ばしてこっそりお金を貯めるというのはどうでしょうか。……やはり立場上、そのような嘘偽りはできませんか。そうですよね。
困りましたね。どうしましょう。
あの、もし貴方さえ良かったらなんですけど。いっその事我々のように、魔術師の手先になるというのはいかがでしょう。
我々の中には、元々報酬目当てでやってきた冒険者という肩書きの方も少なくありません。皆さん、色々込み入った事情でこちら側に寝返ってきますが、中には案外楽しく過ごしている方もおられるようですよ。
神に仕える立場ゆえ、主君を変えることに抵抗がある? でも、寝返ってきた方の中には、意外にも僧侶や司教、君主の方も結構いらっしゃるんです。迷宮で少し戦えば、そこそこの確率でお会いすると思いますよ。まあ、かつてパーティを組んでいた仲間と戦うのは、ちょっぴり切ないと言っていましたがね。でも、無理に鑑定を要求されることはないですし、貴方ほどの実力なら9層や最下層の守護を任せてもらえると思います。きっとやりがいはあるでしょうね。もちろん死の可能性はつきまといますが。
そうですか。ではまず迷宮最奥まで行って魔術師にお目通りしてください。玄室を守護している者たちは、寝返る旨を伝えれば通してくれますよ。連絡しておきますんで。