先生の言葉 全集
12.仲間外れ
しっかし暑いですねえ、師匠。夏でもないのにひどく蒸し蒸ししています。近くで核撃の撃ち合いでもしているんでしょうか?
……おや、火の巨人さんじゃないですか。どおりで暑いわけです。あ、もう玄室の守備を交代する時間なんですね。ん、どうしました? これから玄室の守備に就くっていうのにそんな暗い顔して。何かお悩み事ですか? え? 俺、どうも仲間外れにされているみたいなんだ、ですって?
んー、そんな事はないと思いますけどねぇ。火、土、霜、毒の各属性の巨人の皆さんは、この迷宮下層の守備の中核ですし、みなさんとても仲良くしていらっしゃるじゃないですか。最奥にいる魔術師だって、皆さんの実力やチームワークをちゃんと評価してると思いますよ。
……いや、強いのに経験が少ないのは良い事じゃないですか。そりゃ、巨人の皆さんの中であなただけ突出して経験が低い事は確かです。ですが、てこずる上に得る物が少ないわけですから、冒険者にとってこれほど厄介な相手はいません。そこは胸を張って良い所だと思いますよ。
は? 魔法? はい。確かにあなた以外の巨人は、魔法一つで塵になりますねぇ。でも、塵にならない事だって立派な長所じゃないですか。そこまで皆さんと足並みをそろえる必要はどこにもありませんよ。
それでも、仲間外れにされているような気がする? じゃ、経験を増やして、さらに魔法で瞬時に消し飛ぶようになりたいんですか。そんなの冒険者の恰好の餌になるのがオチですよ。恰好の餌の代表格たる私が保証します。
それに私、他の巨人の方々とも多少面識がありますけど、そんなひどい方々じゃありませんよ。まあ、これは私が言わなくともおわかりだと思いますけどね。
……ねぇ、火の巨人さん。あなた、少しお疲れなんじゃないですか。この玄室は、次の交代時間まで師匠と私(主に師匠ですが)で守りますんで、今日は少しゆっくりされた方が良いんじゃないかと思いますよ。
じゃ、お言葉に甘えさせてもらう事にする? ええ、ゆっくり休んでください。それでは。
……帰っていきましたね。
しかし師匠、変わった悩みもあるもんですねぇ。皆と一緒でいたい、仲間外れになりたくないって欲望は、あんなにも大きいものなんですね。
はい? ええ。ふむ、なるほど、そうですか。うーん……。
……師匠、それは違います。あなたは孤独なピエロではありません。だって、私がいるじゃありませんか。まあ、不肖な弟子ではありますけども。