先生の言葉 全集
10.二ふりの剣
ひっ。な、なんですか。入ってくるなり「ボケ! カス!」なんて怒鳴られても……、私、何かしましたっけ? お前じゃない、あのボッタクリの店だ?
ああ、あの商店。あのお店の評判があまりよろしくないのは、一介の幽霊である私も聞いていますけどね。そんなに頭にくることがあったんですか?
この二ふりの剣をよく見ろ? ……ほほぅ、なかなか良い剣ですね。一般に流通している剣よりも良い出来だと思います、どっちも。こっちはなんでも「切り裂き」そうな剣ですし、そっちはなんでも「真っ二つ」にできそうです。強いてあげれば、そっちの方が持ちやすくて切れ味が上じゃないかと思います。
じゃあ、これどっちが高値で取引されていると思うって? うーん、やはりそっちの「真っ二つ」な方が高値かと思いますが……。逆? 倍以上値段が違う?
なるほど、そういうことですか。
まあ、確かにそういうボッタクリ行為はあまり褒められたもんじゃないとは思います。でも、あのお店も悪いところばかりではないと思うんですよ。例えば、あのお店の武具鑑定とか呪いの解除、あれ結構頑張っていると思うんですよ。大抵の方は、下の階層に降りる頃には鑑定が得意な司教の方と懇意になっているでしょうし、その司教が優秀だと呪われることもまずないので実感が沸かないかもしれませんが、あの店、鑑定も呪い解除も必ず成功させるそうですよ。これ、地味ですが、すごい事だと思うんですよね。それに比べると、どこぞのクソ坊主は、高い金払って灰やロストしても知らん顔ですから。おっとっと、今のは聞かなかったことにして下さい。それに、最下層まで潜って生還するような猛者達のパーティなんかは、侍用のぶきや君主用のよろいといった、一個持ち帰れば一生酒場で飲んだくれ生活ができるような武具を山ほど持って帰ってくるんです。あのお店は、そういった武具をほとんど買い取らされた上、それらの大半が在庫として倉庫に眠ることになるので、実は相当財政が逼迫しているんじゃないかって噂になっているんですよ。もちろん、だからってこの剣の件を正当化するつもりは毛頭ありません。でも、店側も店側で結構苦労をしているんだってことは、ぜひわかってあげてください。
ところで、私友好的なんですけど、どうします?
ん? 店の事情はよくわかった。でも、それでもムシャクシャするから殴らせろ?
……ええ。わかりました。でも、どっちの剣でも痛いもんは痛いんですよ。