先生の言葉 全集
95.博識
なんでそんなに博識なのに、最奥の魔術師から疎まれているのか?
うーん、難しい問題ですねえ。彼の心中は、彼にしか分かりませんからねえ。
取りあえず、私が思うことを話してみたいと思います。まず、私はそれほど強くはないということ。強力なドレインを持つあの吸血鬼や、核撃をぶっ放せる太古の悪魔、石化や致命の攻撃を繰り出せる私の師匠。彼らを近くに置いておきたい気持ちは、恐らく理解できるんじゃないでしょうか。
それに、迷宮に入りたての右も左も分からない冒険者があっさり死んでいくことを、あの魔術師がどう思うでしょうか。彼ほどの悪なら、そんなすぐ死なれてはつまらんと思うでしょう。少しばかり強くさせて、迷宮にも慣れて調子に乗った瞬間に足をすくってやろう、そう考えるでしょうね。
そのために、私のような「練習台」を1階に派遣して、最初は楽勝だと思わせ、下の層で地獄を見せようとしているのかもしれません。
ところで、なぜあの魔術師から私は疎まれていると思ったのでしょうか。私はこの迷宮では1階と、5階以下をうろついています。この範囲は非常に広く、モンスターの中でも上位だと思います。すなわち、それだけこの迷宮にも精通しているということで、最奥を離れられない魔術師が私を信用しているからこそ、こうしてくれている可能性もあるわけです。
また、こういうことも言えます。私は道化師の格好をしていて、さらに道化師の師匠がいます。
そんな私は、本当に博識なんでしょうか。私がうそを言っているという可能性は、実際に確かめるまで分かりません。いえ、私の言ったとおりだったとしてもただのまぐれ当たりで、私がうそつきであるということは誰も否定できないんです。なんせ、道化師なんですから。
ここまでくると、真実は分からなくなってきます。私は実はあなた方を一撃でやっつけられるモンスターかもしれない。その実力を恐れるあまり、魔術師は私を遠ざけたのかもしれない。私が師と仰いでいるあの道化師も、実は私のほうが操っているかもしれない。
そもそも、この迷宮も私が作ったのかもしれない。私以外のモンスターは全て、私が操っているのかもしれない。いや、この迷宮自体が、私が作り出した幻影なのかもしれない。最奥の魔術師も狂王も商店のおやじさんも寺院の高僧もあなたがた冒険者も、実は私の空想なのかもしれない。
博識とか疎まれているとかそれ以前に、なぁんにも分からないんですよ。