先生の言葉 全集
91.めんどくさい
おお、ゴーゴンさんじゃないですか。そろそろ時間ですよ。
そういえば、久しくお目にかかっていませんでした。私たち、この10階の玄室を守護することが多いんですけど、ここ最近はなかなかシフトが合わなかったんですかね。
しかし、相変わらず立派な体をしておりますね。こんな巨体が角を振りかざして突進してきたら、大抵の冒険者はイチコロですよ。しかもお供にキメラさんなんかが控えてるっていうんですから、これ以上、恐ろしいことはありません。
それに比べて私は……。師匠は相変わらず超人的な強さを誇ってるんですが、いかんせん後続にいる私とその分身がね……。おかげで師匠も、一度お試しで後続を変えたらどうだなんて提案されたってぼやいてましたよ。全く、あのきざな吸血鬼のやつ、余計なことを言いやがっ……ああ、今のはあくまで冗談です。ただのアンデッドジョークですから、多言はしないようによろしくお願いします。まあ、師匠はその提案を一蹴したって言ってましたし、私も師匠以外の後ろに付くつもりはないんですがね。
さて、話は変わりますがゴーゴンさん。あなたにお伺いしたいことがあるんですよ。差し支えなければ聞いてもよろしいですか。
ええ。なんでも最近、あなたがブレスを吹くのを止めたといううわさを耳にしたんですよ。ここぞというとき、例えば最後尾の魔法使いが死にかけているときなんかでも、かたくなにブレスだけ吹かないと。それで、後ろのキメラさんがものすごく苦労してるって結構なうわさになってるんです。ゴーゴンさん、何か心境の変化でもあったんですか、それとも、呼吸器系の疾患があるとかですか。よければぜひ、お話してみてくれませんか。
え、そんなんじゃない? ただ単にブレスをはくのはめんどうくさいし疲れるから、最近あんまりはかないようにしているだけだった? それに、お供のキメラたちのブレス攻撃も強いから、彼らだけで十分だろうと思ってた?
そうなんですか。ブレスってそんな疲れるものなんですね。私、はいたことがないので知りませんでした。ええ。はい。なるほど、師匠もそうなんですか。ところで師匠、参考までに自身のお話をしてくださるのはありがたいですが、あんまり話に割って入らないでください。
でも、そんなにうわさになっているなら、あらためてちゃんとブレスをはくようにする? 私もそのほうがいいと思いますよ。ちゃんと自分の実力を出して戦ったほうがいいですからね。