先生の言葉 全集
83.とろみ
おや、いつもいつもご苦労さまです。
今日も例のものを取りに2階へ行くんですか。大変ですね。え? お客さんのことを思えば、このぐらいの苦労など何でもない? さすが、酒場のおやじさんは言うことが違いますねえ。
でも、酒場の冒険者たちもいろいろな意味で驚くんじゃないですか。こうやっておやじさんが直々に食材をダンジョンに潜ってまで取りに行ってるなんて知ったら。おやじさんはたしかに屈強ではありますが、迷宮に潜っていることまでは誰にも話していないんでしょう?
まあ、確かに誰にも言っていないが、せいぜい俺が行くのは浅い階層だけだから? そうなんですか。おやじさんなら深い階層でも全然やっていけると思いますし、深い階層にも食材になりそうなモンスターは結構いると思いますけど。メデューサリザードの唐揚げとか、キメラの手羽先とか、ゴーゴンのタンとか。冒険者に結構喜ばれそうな気がするんですけれどねえ。
いや、さすがにそんなに深くまでは潜れないし、何せこちらは一人で潜っているから、そいつらに奇襲されると危ない? まあ、確かにそうかもしれませんね。
とは言っても、いつも取りに来てるものはそんなに重要なものなんですか。私にはとてもそんな風には思えないのですが。ええ。とろみを付けるのには超重要? うーん。私、久しく食べるという行為はご無沙汰なので分からないのですが、そんなにもとろみってものは重要なものなのですか。
ええ。スープを作るにもあんかけにするのも、どうしてもあのモンスターのとろみじゃないと駄目なんですか。おかしなもんですねえ。モンスターだけで見たら、普通に食べるのは危険なやつだと思うんですが。
いや、でも東洋の国ではわざわざ毒のある魚の安全な部分だけを食ったりするじゃないかって? まあ、そういう話は聞きますけど、何もそんな危険を冒してまですることはないでしょうに。
いや、そんな危険を犯してまでもうまいもんを食いたいのが人間という生き物の性なんですか。はぁ。一介の幽霊にはそれはちょっと理解はできそうにありませんねえ。
なにはともあれ、頑張ってきてください。クリーピングクラッドの捕獲と、毒抜きの作業。
でも、酒場の料理のとろみにクリーピングクラッドが使われているって知ったら、吐き気を催す冒険者もいるとは思いますよ。それだけは忘れないようにしたほうがいいかもしれませんね。
まあ、とにかく、お気を付けて2階へ行っていっらっしゃいな。