先生の言葉 全集
75.善と悪
こんばんは。おやおや。どうやら皆さんは、この部屋に来るのが初めてのようですね。
どうも。私がこの部屋の主で、この迷宮1階の名物の何度でも現れる幽霊です。以後、お見知りおきを。といっても、私のうわさは、恐らく冒険者の間に十二分に広まっているので、あなた方も既にご存じかもしれませんね。
ええ。そうですよ。私はあまり強くはないですし、倒しても倒しても、いつでもここにおります。それが何を意味するかは、少し頭の回る冒険者の方なら、すぐに分かると思います。あなたがたは、私のこの特性を生かして存分に活用するもよし、ただ単にスルーしてしまうもよしというわけです。
じゃあ、ここでお会いしたのもなにかの縁ですから、まずはお手合わせをするとしましょうか。しかし、その前にちょっと確認したいことがあります。私、友好的なんですけど、本当に戦って大丈夫ですか？
おや、どうされました、深刻な表情で話し合いを始めちゃって……。
ふむ。ちょうど善と悪が3人ずついるから、ちょっと話し合いをする？ そうですか。なんでそんないびつなパーティを組んでいるのかは知りませんが、事情があるというのなら少しばかりお待ちいたしましょうか。
…………。
…………。
…………いや、その、あのですね、皆さん。もう結構な時間はたっているんですけど、そろそろ結論は出ましたか？
あの、許すことが正義とか、弱い者をいじめるのは楽しいとか、もっと倒すべき巨悪がいるだろうとか、経験も金も手に入るとか、ずいぶんと議論が白熱しているようですけど、いい加減、待っているこちらの身にもなっていただけないでしょうか。結論を出してくれないと、戦うことも和解もできないので、こちらとしては非常に困るんですが……。
ええ？ うるさい？ 今、こいつらに人としての道の正しさを説いている最中なんだから黙ってろ？ いや、何もそこまでしなくてもいいですから。取りあえず、私をどうするかだけ、早急に決めましょうよ。
はい？ おまえもモンスターの端くれなら悪の道の正しさをこいつらに説いてやってくれ？ そんなことを言われても困ります。それに、悪の側が勝ったら戦闘決定ですし、そうなったら、私、ほぼ負けですから、正直、あんまり肩を持ちたくありませんよ。
あーあ。そんなことを言っていたらまた議論が白熱し始めちゃった。これじゃ、いつまでたっても彼らの去就は決まりそうにないな。せめて部屋の外でやってくれないもんかなあ。