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先生の言葉 全集

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116.skydiver



 どうも、こんにちは。おや、どうして地下迷宮を探索するのにそんなものを背負っているのですか?

 ええ? もう迷宮探索は飽きた? これはものすごいことを言い出しましたね。迷宮の探索をしなければ最奥の魔術師にお目にかかれませんし、それができなければ狂王に気に入られて近衛兵になることも無理なんですよ。

 はあ。もうそんなつまらないことに命をかけて戦い続けるのはこりごりだ? 近衛兵になんかなりたくないし、もう一生のんびりするだけの金はあるから、これからは好きなことだけやって生きていくつもりだ?

 まあ、あなたの人生ですから好きにすれば良いと思いますが、その好きなことというのが、今、背中に背負い込んでいるものと何か関係があるのですか?

 ふむ。もうこんな暗くてジメジメした迷宮にいるのは嫌になった、これからは空中を舞台に生きていく? だからパラシュートを背中に背負っているんですか。でも、空中と言っても、今、あなたは迷宮にいるじゃないですか。これからどうやって空中に上がろうと……ああ、まさか、空間転移の魔法を用いるつもりですか?

 確かに、あの魔法で座標指定を間違えて、この迷宮のはるか上、城塞の空に転移して墜落した冒険者がいたことは確かです。でも、パラシュートを持っていれば大丈夫というわけではないでしょう。何か予期せぬトラブルが起きる可能性もありますし、そもそもぶっつけ本番でうまくパラシュートが開くかどうかもわかりません。それ以上に、狂王は軍事機密などが漏れるのを嫌っていますから、パラシュートで王城付近をフラフラ飛んでいたら、それこそ撃ち落とされかねませんよ。

 そうなったら、こっちもありったけの攻撃魔法で応戦してやる? ほほう。それは勇ましいですね。でも、あなたは冒険者だったんですから、狂王になんの恨みもないでしょう。転移魔法で城上空に飛んだり、攻撃してきたら反撃しようとしたり、本当にそれがあなたのしてみたい好きなこと、なんですか?

 どうせメイジなんて職業は、よくて宮廷魔術師にしかなれないし、他人の風下で人生を終わるくらいなら、大空の下で派手にドンパチやって死んでやるぜってことですか。その気持ち、なんかわかりますね。で、もう行くんですか。それでは、あなたの転移先に幸多からんことを。

 ああ、行ってしまいましたね。今ごろは空中でふわふわ浮かんでいるんでしょうか。まあ、私は地の底で、またふわふわと生温く過ごすとしますかね。


作品名:先生の言葉 全集 作家名:六色塔