先生の言葉 全集
70.伝言
はい。師匠に折り入って伝えてほしいことがある?
一体どんなことでしょうか。皆さんのような最下層常連の方々から、意見を承ることなど、私も師匠もめったにありませんから、ちょっとドキドキしてしまいますね。もっとも、私は幽霊なんで心臓は動いていないのですが。
え、師匠が強すぎる? だから、少し手を抜いてくれるよう頼んでくれないか? ああ、そういえば、あなたがた、こないだ師匠一人に完全にほんろうされて、ほうほうの体で逃げ帰ってましたね。
あれから、亡くなったメンバーは無事に生き返ったんですか? え、1人だけ戻ってこれなかった? そうですか。それはご愁傷様です。大切な仲間が喪失するのは非常に悲しいことだと思います。けれども、先ほどの言葉を師匠に伝えるわけには参りませんよ。
それに、仮に師匠が手を抜いたとしても、最下層には他にも凶悪なモンスターが潜んでいるんですよ。太古の魔神、狂気の君主、とんがり帽子の首はねマシン……、強敵全員に手を抜いてくれと頼む気ですか。そんな交渉をちまちまするくらいなら、あなた方が強くなったほうがはるかに早いと思いますよ。
それに、あまり言いたくはありませんが、だいたい師匠はそこまでじゃありませんよ。私というハンデを背負っているんですから。師匠のおともが毒の巨人さんだったらと想像してみてくださいよ。全員、息を吹くだけで誰もいなくなりますよ。私が後続で感謝してもらいたいぐらいです、全く。
分かりましたか? 少々厳しいことを言ってしまいましたが、お分かりになられたんなら、精進してさらなる修行を行い、武具を整えてから再度挑戦しましょう。命を失ったのが1人だけだったのはある意味で幸運だったんですから。
分かった、じゃあ、8階あたりで修行をやり直す? そうですね。そうするのがいいと思いますよ。じゃあ、頑張ってきてください。
……なんですか、まだ話すことがあるんですか。
でも、もう少しだけ、ブレスの頻度を下げてくれるようにお願いできませんか? ……
師匠がブレスを止めると、おそらく攻撃をしますし、攻撃をしたら恐らく、誰かの首が飛ぶか、良くて石化ですよ? それでも、そのほうがまだ勝てる可能性がある?
……仕方がありませんね。とりあえず、話だけはしてみますけど、師匠、あの見てくれの通り、残虐なピエロですからね。皆さんの思い通りに、手を抜いてくれるとは限りませんから、仮に駄目だったとしても恨まないでくださいね。