先生の言葉 全集
68.踏みとどまる者
どうも、こんばんは。この時間になるといつも一人でいらっしゃいますね。とても練習がお好きなんですね。
ええ。存じております。普段のパーティではいつも4番目にいらっしゃいますよね。全ての魔法を知る戦士ということで、私たち迷宮のモンスターもうわさになってるほどですよ。
しかし、それほどの高い実力を持つあなたが、なぜいまだに私を相手にし続けているのでしょうか。何か思うところでもあるんですかね。もし良かったら、練習の前に教えていただけませんか。もちろん、必要なら他言はいたしませんよ。
ふむふむ。ほう、なるほど。あなたは以前、魔法使いだった頃、パーティが全滅しかけたところを即座に空間転移の魔法を唱えて、からくも脱出したことがあるんですか。ほほう、それは初耳です。で、そのときに、傷を癒やすことができる僧侶の道を志すようになったと。そういうことですか。なかなか大変な経験をお持ちなんですね。味方の死体を置いて逃げなければならないのは、さぞかしつらかったでしょう。
で、その後、僧侶を経て戦士になったけれども、一番最初のこの経験が忘れられない? そりゃ、そうでしょうね。頼りにしていた仲間たちがあっという間に命を落としていくんですからねえ。それで、全滅をすることだけは避けたいと思うようになり、全滅をしないようにするにはどうすればいいかを考えた結果、パーティの4番目に位置するのがいいと思うようになったと……。ふむ。いったいそれはどういうわけですか。
はい。なるほど、パーティのバランスが崩れるのは、誰かが死んだときだと考えるんですね。誰かが死んだときに踏みとどまれるように、4番手に前衛も後衛もできる一番強い人間がいるのが良い、と。そうですか。だから、全ての魔法を覚えて戦士になった上に、こうして鍛錬も欠かさないわけなんですね。
確かに、前衛を倒して、後ろから上がってくる者は、僧侶であれ盗賊であれ弱そうな気がしてしまいますよね。ときには、何も装備していない方もいらっしゃったりしますし。そういう意味では、心理の裏をかくいい作戦かもしれません。
ただ、個人的には、ちょっと後ろ向きな考えな気がします。誰かが死ぬ前提よりも、全員が生き残るべく、もっとも強いあなたが先頭に立つのが私はいいように思いますが、まあ、パーティ構成などにもよるでしょうから、そこは好きずきでいいのかもしれません。
じゃあ、今日も特訓を開始しましょうか。