先生の言葉 全集
66.出たがり
私に相談があるとのことですが、いったいどういった相談ですか。
ええ。後日、ここに来たとき、先頭にいるうちの魔法使いを殺してほしい？ いやいや、皆さん、それはさすがに引き受けられません。なんでって？ だって、それ、いじめでしょ？ 人がどんどん倒れゆくようなこの迷宮でも、さすがにいじめはよくありません。
いや、そうじゃない？ だって、いじめでもない限り魔法使いの方が、パーティの先頭に立つなんてありえないでしょう。皆さん、ごまかすのは本当にやめましょうよ。味方をいじめるくらいなら、私でもいじめてくださいな。私、ばかにされるのは慣れていますし、対して抵抗もできませんし、なんなら経験値だって入るんですから、皆さんがいじめるにはうってつけの存在だと思いますよ。
何？ 本当に違うんだって？ じゃあ、どういうことなんですか。どんな状況で、魔法使いの方が先頭に立ってこの部屋に入ってきて、私に戦闘を仕掛けるっていうんですか。
ええ。あいつはこないだ加入したいわゆる新参者で、まだレベルも年齢も低く、いわゆる厨二病がまだ抜けきっていないので、自分を勇者かなんかだと思っている節がある、だから、自分は白兵戦もできると信じ込んで先頭に居座りやがるんだ、ということですか。なるほど。それで、目を覚まさせるために一度死んでもらって現実を見せて、あらためて後列で育てなおそうというわけなんですね。ふーん。変わった方もいるもんですねえ。ちなみに魔法使いということは、本当につえとローブで殴りかかってくるんですか。はい。攻撃が当たったことはないけど？ まあ、そうでしょうね。
でも、その程度だったら私でなくとも、ローグさんやブッシュワッカーさんにちょっと脅してもらえば十分じゃないでしょうか。
ああ、その方は最近グループ攻撃魔法を覚えられたんですね。じゃあまずいか。なるほど、事情はよく分かりました。うまくやれるかどうか分かりませんが、取りあえず努力はしてみます。
ですが、一つだけ条件があります。私がその方を首尾よく倒した後ですが、ちゃんと魔法なり街に連れ帰るなりして、生き返った姿を私に見せてください。まだちょっといじめの可能性が残っていますのでね。まあ、そのまま喪失された場合は……、悲しいですがそれも宿命だったということで。
じゃあ、確かに承りました。それでは後日、あらためて彼を連れて、こちらにいらっしゃってください。よろしくお願いいたします。