先生の言葉 全集
65.ノイローゼ
どうしたんですか皆さん。暗い顔をして。せめて顔だけでも元気にしていなきゃ、こんな迷宮でやっていけないですよ。まあ、青白い顔をした貧相な幽霊に、こんなことは言われたくないでしょうけど。
ん? これからやる作業を考えたら、とてもじゃないけどにこやかな顔なんてしてられない? なんですか。そんなに面倒な作業があるのですか。格上の敵との戦いなら、もっと経験を積んでから出直すのも手だと思いますよ。そういうのは、実力が十分でないのに挑むほうが悪いんです。単純に計画の変更を考えるべきだと思います。
違う、そうじゃない? では、よっぽど取得する確率が低い武具でもお探しですか。でも、ああいうのを狙って取得できるようになるのも、やはり相当レベルが高くなってからだと思います。それまでは、見つけたらやったぜ程度の気持ちで臨むのが正しい心のあり方ってもんです。分不相応に強力な武具を探し求めるのは、自分の命を縮めるようなものだと思います。
それでもない? 一体あなた方は、何をたくらんでいるのですか。私も冒険者の話はよく聞きますが、冒険者になったことはありませんからね。皆さんが迷宮内でしている作業の全ては分かりません。ということで、いい加減ネタも尽きましたので種明かしをしてください。何が皆さんをそんなに暗い顔にさせているんですか?
マッピング? ああ、皆さんはこの迷宮内の地図を描いているんですね。マッピング、確かに一歩ずつ座標と向きを確認してという作業を、1階から10階までやるのは面倒ですね。回転床やダークゾーンもありますからね。でも、あなたがたは階層のほとんどを描き終えているんでしょう。残り数パーセントならば、後もう少しじゃないですか。それこそ笑顔で頑張ったらいいんじゃないかと思いますよ。
え? その残りの区画が岩かどうかわからないから、今から転移の魔法で飛び込みに行く? だから、帰って来れなかったらそこは岩として、別の冒険者に記録するように言ってある。……あわわわわ。あなたがた、自ら失われに行こうとしてるんですか? いや、さすがに考え直してください。ここまでレベルもあがって、皆さん、とても優秀じゃありませんか。なんでそんなことをする必要があるんですか。
マップを完成させたいからだって……。そんな紙切れのために命を張らなくてもいいでしょうに。ああ、行ってしまいました。こうなったらもう、かの地が岩でないことを祈るだけです……。