先生の言葉 全集
115.テレワーク
師匠、そろそろ交代の時間です。
今回は誰も冒険者が来なかったので、暇でしたね。戦うことが大好きな師匠には退屈だったかもしれませんが、私は正直ホッとしていますよ。
お、次に玄室を守る方がやってきましたね。おや、毒の巨人さんたちが四角くて薄い板のようなものをかついでいますね。あれはもしかして……。ああ、やっぱり。どうも、太古の魔神さん。すっかりご無沙汰しております。次の玄室の守衛はあなたと毒巨人、それと光球の組み合わせですか。それなら、ここを突破できる冒険者はまずいないでしょう。安心して後を任せられるというものです。
こんなディスプレイ越しという形での参戦で申し訳ない? いえいえ、あなたは魔界からのテレワークという形でも明らかに私なんかより強いですから。きっと師匠ともいい勝負だと思いますよ。ほら、師匠もうなずいているようですし。それに、強大な魔王であるあなたがこっちに来ちゃったら、この迷宮そのものが壊れてしまいますからね。そのディスプレイでできる範囲で魔界から核撃やエナジードレインをしていただければ十分ですよ。
ただ、ディスプレイを運搬するのに毒の巨人さんが必要なことと、ディスプレイが見える十分な明かりということで光球さんもお供にいる必要があるのは、かなりモンスターの頭数が必要だってことで魔術師の側近の吸血鬼が頭を抱えていましたね。そのディスプレイもとても作るのが難しい魔法の品なので、なかなか量産ができないとなげいていましたし。
でも、そういう意味では、ここぞという場面に投入するわがモンスター軍の切り札という重要な存在ですので、われわれは皆、直接こちらに来られなくてもあなたには期待しているんですよ。
ええ。では、そういうわけで、失礼しますね。毒の巨人さんも、光球さんも頑張ってください。では、お疲れさまです。
いやあ、師匠。久しぶりにあの魔界の王にお会いしましたね。私はディスプレイ越しでも恐れ多くてすっかりかしこまってしまいましたよ。師匠もきっと話したいことがあったかもしれませんが、交代する短時間だけでは、あいさつをするのがやっとでしたね。
しかし、恐ろしいもんです。魔界からディスプレイを介して核撃の魔法を放ったり、エナジードレインをしていくんですから。
世にはディスプレイから配偶者が飛び出してこないか夢想する方もいますが、そんな都合のいいものだけが出てくるほど人生、甘くはないみたいですね。