先生の言葉 全集
45.アイデンティティ
いやいや、どうもどうも。いつぐらいぶりでしたっけ。随分と、ご無沙汰をしておりましたね。ああ、そうだ。ワータイガーさんやキラーウルフさんやジャイアントスパイダーさんに、かじられたりしていませんか。メデューサリザードさんやガーゴイルさんたちとも、仲良くしていますかね。それはそれは。お元気そうで何よりです。
そういえば、例のお悩みの件はどうなりましたか? 以前お会いしたときは、随分と悩んでおられたようですが……。ええ。前ほどではないけれど、やっぱり悩みは治まらない? そうですか……。こればかりはなかなか、難しい問題ですからね。
しかし本当にあなたは、いったいどこからどうやって生まれてきたんでしょうかねぇ。
毒や回復、魔法の無効化と多彩な能力を持つ上に、魔法使いの呪文まで使いこなせる。主に迷宮の中層を根城としていて、あまり知られていないが3階に出現することもある。見た目はどう見ても不死族なのに、ほんとのところは幻獣。そして、その名はスピリット。
考えれば考えるほど、出自が分からない。謎が謎を呼びますねぇ。それに、不死族もびっくりするくらい不気味な姿をしているのに、とても優しいんですよねえ。弱点らしい弱点といえば、あの魔法でちりになることぐらいですか。でも、見た目のせいで不死族だと思われてるので、あの魔法を唱えてくる魔法使いはなかなかいないでしょうねぇ。むしろ僧侶や司教の方なんか、勘違いして呪いをとこうとしてきたりするんじゃないですか? ええ。彼らが呪いをとこうとしているすきに、魔法で全員、やっつけたことがある? それはそれは、素晴らしい。全くもってうらやましい限りです。
そうですよ。みんながうらやむほどの実力の持ち主なんですから、自身のルーツなど、もはやどうでもいいではありませんか。この迷宮の中層にちゃんと自分の居場所がある、それだけで十分じゃないかと思います。
それにひきかえ私なんか、ねぇ……。下層や中層では肩身は狭いし、上層では主に冒険者に喜ばれていますが、それもあまり胸を張って言えるようなものではありませんから。ええ? そんなことをずっと言われていたら、また自分が何者かについて知りたくなってきてしまった? あわわわわ。それはそれは、誠に申し訳ございませんでした。でも本当に、一つのことにあんまりこだわって考えすぎるのは体に悪いですよ。精神に障ると、よいことはありませんからね。
スピリットだけに。