先生の言葉 全集
44.ふわふわ
どうも皆さん、こんにちは。
ここに来ているということは、10階の最初の玄室を突破したということですね。でも、ここに来るまでに書かれていたメッセージのとおり、まだまだいますよ。2番手が私で拍子抜けしたかもしれませんが、ここから先は強敵ばかりなので油断は禁物です。
え? 唐突だけど、前の玄室にいた青いふわふわしたやつ、あれ一体何なんだ?
ああ、それはきっとウィルオーウィスプですね。青白くて、ふわふわしていて、玄室内を高速で飛び回っていたでしょう。ならば、きっとそうですよ。
なかなか攻撃が当たらなかった?
そうですね。素早くて魔法も滅多に効きませんから、前衛の方の腕力でどうにかするしかありません。ただ、防御力も非常に高いので倒すのに時間がかかるでしょうね。
でも、それほど攻撃力は高くないし経験は多かった?
ええ、それもそのとおりです。正直、ここまで来られる程度の冒険者ならば、足止めするぐらいにしかなりません。まあ、足止めにもならない私よりはましですけれども。そしてせっかく足止めしても、経験が多いのが、われわれにとっては痛いところなんです。だから、弱くて経験値も低くて仲間を呼ぶ、足止め専門のモンスターを、最奥の魔術師と不死族の王とで作り出そうとしているともっぱらのうわさなんですよ。
そんなことはいいんですよ。さっさと戦いましょう。私も10階では友好的でいられませんので。
は? 嫌だ? もう一度あの青いやつと戦いたい?
そんなことを言われても困ります。ここの玄室の守備は私なんですから、私と戦うか、逃げ出して別の敵を選ぶか、どちらかにしてください。
逃げて、強いやつがいたら嫌だ?
何を言うんですか、ここ10階ですよ。私やウィルオーウィスプが例外なだけで、強いやつがいるのが普通なんです。
なら仕方がない、逃げることにする?
ああ、そうですか。じゃあ、次にウィルオーウィスプがいることを祈るんですね。確率的には、かなり低いでしょうけれど。……はぁ、行ってしまいました。しかし、あきれたもんですね。あのような性根の持ち主で、よく10階まで来れたものです。
あ、守備の交代の時間ですか。おお、バンパイアの皆さん! そうだ、さっき逃げてった冒険者がいましたよ。きっとまた来ると思いますんで、そのときはお得意のドレインで絶望にたたき落としてあげてください。
これで、ウィルオーウィスプよりふわふわしたあの性根も、少しは治るといいんですが。