先生の言葉 全集
43.正体不明の存在
はぁ、はぁ。疲れました。少し休みませんか。
しかし、みなさんここに来るようになって、ずいぶん腕を上げましたね。この周辺も、ほぼ探索し尽くしたんじゃないですか。もうこの階層で、知らないことなどないでしょう。
いや、たくさんある?
そうですか。やはり冒険者、好奇心が旺盛ですねえ。私が知っていることがあったら教えますので、よろしければ何でも聞いてください。
あー。暗闇にいるおじいさんについてですか。これは参りました。あの方、私もよく分からないんです。
私、こう見えてモンスターやってるじゃないですか。だから同じモンスターについては、知ってることもそれなりに多いです。さらにこの場所は、冒険者の方がほぼ必ず訪れる場所じゃないですか。だから冒険者についても、知ってることは結構多いです。あと、こう見えて私、中層や下層にもいることが多いので、この迷宮にも精通していると思うんです。
でも、あのおじいさんはよく分からないんです。いつから、あそこにいるのか分からない。あそこで、何をしているのかも分からない。なにゆえ、あそこにいるのかも分からない。そもそも、何者なのか分からない。
分からないづくしなんです。
ええ。冒険者の方に聞く限り、基本は問答無用で城へと追い返されるようですね。ただ顔なじみになると、世間話くらいには応じるなんてうわさもあるようです。それに城へ帰してくれるので、それで助かった冒険者などは、決して悪い人じゃないという評価をしているようですね。はい。私も直接お会いしたいなと、思うことはありますよ。でも私、1階はこの場所しか出現できませんし、彼もあの玄室にこもりきりでしょう? 冒険者からうわさは聞けても、直接は会えないんですよね。
もしかして、顔を合わせてみたら、知り合いかもしれない?
うーん、どうでしょう。私、かなり偏屈な知り合いも多いですが、ああいうお方はいた記憶ないです。ただ会ってみたら、そこそこ仲良くなれそうな気はします。最奥の魔術師や狂王よりはまだ、面倒ではなさそうですし。
……とまあ、ここまでお話したとおり、彼について、私の知ってることはほとんどありません。
距離にしてみたら、ここからそれほど離れていないんですけどね。というわけでみなさん、私の代わりに調べてみて分かったら教えてください。
私よりよっぽど「正体不明の存在」である、あのおじいさんのことを。
というわけで、さあ、戦闘を再開しましょうか。