先生の言葉 全集
42.生を盗むもの
いやあ、9階あたりをうろついていれば、またお会いできると思っておりました。随分とご無沙汰をしておりましたが、お元気でしたか。
ええ。相変わらず、何とか生き延びてるって?
いやいや、そんなご謙遜を。あなたの実力は、この迷宮でもかなり上位ではないですか。最下層の守備を任されていないのが、不思議なくらいですよ。
そんなふうに思ったことはない?
私からしたら、うらやましい限りですけどねえ。まず、あなたの最大の長所はそのドレインの能力です。ただでさえ、冒険者は経験値を吸い取られるのが嫌な上に、それを2レベルも吸い取っていくんですから。たくさん経験を積まなきゃならない侍や君主、忍者の皆さんは、あなたを見ただけで震え上がるんじゃないかと思いますよ。
それだけじゃありません。魔法も使えるじゃありませんか。しかも、魔法使いと僧侶の呪文の両方。さぞかし、多彩な攻撃で冒険者達を苦しめておられることでしょう。
さらにさらにさらに。私が一番言いたいのは、これですよ。あなたのその姿。あなたのその容姿が、怖くて、不気味ですごくいいなあと常々思ってるんです。この真っ白い肌にボロだけをまとって、首を千切れるぐらい横に曲げ、髪を振り乱している姿。暗い迷宮の中であなたにいきなり出くわしたら、さぞかし怖いでしょう。気の弱い冒険者なんか、それだけで心臓が止まってしまうかもしれませんよ。ほら、今日もいい首の曲がりっぷりじゃないですか?
……ええ。最後の件はともかく、褒められるのは嫌いじゃない?
最後のも十分胸を張ってくださいよ。同じ不死族なんですから、ちゃんと知ってますよ。私たち、人間に怖がられてなんぼじゃないですか。それにひきかえ私なんて、全然怖がられてないですからね。ホッとするなんて言葉が聞ければ、まだいいほうですよ。私、宝箱持ってないんで、出会うとみんながっかりするんです。ひどいったらありゃしませんよ、ったく。ああ、すみません。愚痴っぽくなってしまって。でも、そういうことですし、これからも自信を持って頑張ってください。
え? 寿退職を考えているから、最近はメイクもしてるのに、ちょっとひどいって?
そ、そうなんですか、それはすみませんでした。
はい? 用事があるからこれで?
ええ、さようなら。
……ライフスティーラーさん、結婚願望あったんだ。しかも、生者が好み……。でも、申し訳ないけど、夫婦生活うまくいかない未来しか見えないなあ……。