先生の言葉 全集
31.いしのなか
師匠、今回守るのはここの玄室です。毎度のことですが、私は相変わらず役に立たないので、よろしくおねがいしますね。
……！ ちょ、ちょっと、あなた、何をやっているんですか。そんな玄室の壁から、首だけを突き出して。しかもそのちょんまげ、あなた、侍ですね。最下層でそんなふざけたことをしていては、命がいくつあっても足りませんよ。
何ですって？ 盗賊が宝箱を開くのにしくじって、テレポータの罠にハマってしまった？
ああ、そうだったんですか。じゃあ、ふざけてるんじゃなくて、いしのなかに体が入ってしまってるんですね……。でも、首から上だけは、奇跡的にいしのなかに入らなかったと。ということは、他の方は？ そうですか、近くに5人とも埋まっているはず、と。それはご愁傷様です。しかし、あなた侍ですよね。しかも、ここまで来られるくらい高レベルの。ならば、転移の魔法を唱えれば、1人だけでも脱出できるんじゃないですか？ ああ、手が使えないから呪文もアイテムも無理、ですか……。なるほど。言われてみれば魔法使いの方、みんな手を上げて魔法を詠唱してますもんね。それじゃあ、ちょっと無理ですね……。
何ですか？ もう生還するのはあきらめてるから、せめて最後に調べてほしいことがある？ ええ、私にできることならば協力しますけど。
実はテレポートする瞬間、夢中で宝箱の中身をつかんだんだ？ そうしたら、？ぶきというやつだった、と。ほう、そうですか。このぶきが、俺たち侍がみんな憧れるあの刀かどうか、今からでも調べがつかないだろうか、ということですね。なるほど、そういうことですか。でも実は、知り合いの司教に聞いたことがありますが、ぶきの識別は意外と簡単らしいですよ。2種類しかありませんし、形状も大きく違っていますから。
で、そいつはどんな形ですか？ 長いやつでしたか、もしくはトゲトゲのついた薄いやつでしたか。長いほう？ ああ、それは良かった。そのぶきは恐らく、あなたのお望みの品ですよ。良かった、これで心置きなく死ねる？ まだあきらめるのは早いですよ、脱出できる手段は必ずあるはずです。いや、このぶきを握って死ねるなら本望だ、すまんが介錯を頼む、ですか……。
……わかりました。あのー、すみません、道化師の師匠、ちょっとお手を煩わせてもらってもよろしいでしょうか。
ええ、この壁から生えている首をですね。なるべく苦しまないよう、一撃でスッパリやってあげて下さい。