先生の言葉 全集
30.婚約指輪
いったい、どうしたんですか。入ってくるなり、お前、指輪持ってないか? なんて聞いてきて。そんな大層なもの、私は持ってませんよ。私が所有しているのは、このボロの道化服だけです。なんですか、高価な指輪でも落としてしまったんですか?
え、将来を約束した女性がいる?
ほう、それはそれは、うらやましいことです。で、この迷宮で婚約指輪になるようなお宝を探しにきた?なるほど、それで指輪を持ってないか聞いてきたんですね。でも残念ですが、この第1階層では指輪は手に入らないと思います。まずお宝自体、この階層では手に入りませんから。仮に何かを見つけても、お店で売ってる品ばかりでしょうね。
じゃあ、どこなら手に入るんだって?
そうですね、5、6階辺りに行けば、宝箱の中からちらほら出てくるんじゃないでしょうか。ああ、あと4階のとある場所でも手に入りますね。でもあれは、婚約指輪にはふさわしくないか。蓄えが欲しい人は、よくリスクを承知で持ち帰ってますが。
いや、ちょっとお待ちください。一人で5階や6階に踏み込むのは、とても危険ですよ。1階なら一人でもどうにかなりますが、あんな深い階に一人で行くもんじゃありません。仲間とパーティを組んで、皆でいかないと。
でも、こういうのは一人で取りにいかないとかっこ悪いって?
いやいや、それであなたが命を落としたら、将来を約束したその女性が、悲しんでしまいすよ。別に仲間がいたからって、あなたが真心込めて頑張ったことに、変わりはないと思います。それに考えても見てください。あなた、戦士でしょう? 宝箱の罠、どうするつもりですか。全部開けるつもり? そんなの無茶です、死ににいくようなものですよ。いいですか、適材適所と言う言葉もあるように、各々の職業でちゃんと役割があるものです。皆で、助け合って協力して力を合わせなければ、とてもじゃありませんが迷宮の奥までは到達できませんよ。これは、夫婦生活も同じだと思います。一方的に頼ったり頼られたりじゃ、どんなに愛し合っていても、破綻してしまいます。二人で協力して人生の荒波を乗り越えてこそ、一緒になる意味もあるってもんじゃないですかね?
はい、ええ。そうですか、その女性は魔法使いなので、残り4人を加えて迷宮に挑むことにすると。ええ、ぜひそうしてください。レアな指輪を手に入れたら、きっと見せびらかしに来てくださいね。のろけ話を聞く覚悟は、できていますから。