先生の言葉 全集
29.敗北したものたちへ
おや、どうされましたか、5つも死体を引き連れて。あぁ、全滅しかけたところを、あなた一人生き残ったんですか。良かったですね。それなら寺院に頼めば何とかしてくれますよ。
え? そうはしないつもり? こいつらは埋葬して、俺は田舎で家業を継ぐことに決めた?
なるほど。それも良いでしょう。なにもここで命をかけて、栄華を追う必要はありません。地に足着いた、等身大の人生を送るのも悪いことじゃありませんよ。
最後に聞きたい事がある? モンスターなのに、何故冒険者に優しくしてくれるのか?
……そうですね。もう冒険をやめる方になら、話しても良いかもしれません。
まず、私のようないわゆる友好的な雑魚モンスターが何故いるのでしょうか。
未熟なパーティの訓練のためでしょうか。性格を変更しやすくするためでしょうか。全滅やロストの際の、パーティ立て直しのためでしょうか。どれも正解だと思います。ですが、私の使命はそれだけではないと思うのです。
例えば、初陣の冒険者にすら斬り殺されるような、誰も顧みることのないモンスター。彼らにだって、生命が、生活があるのです。彼らの気持ちを慮り、冥福を祈る者はいますか? 僧侶や司教たちですら、顧みることのない彼らたちを。
あなた方、冒険者も同様です。順調に力をつけ、魔術師を倒せずとも高価な宝にありつける冒険者は、それこそ一握りです。あなたのように、命を失わずに故郷へと帰れる人間だってごく少数です。大半はこの迷宮内か寺院で、骸となって朽ち果てていくのです。
私は、強大なものによって虐げられ、霊となりました。霊となってもご覧の通り、弱いモンスターの代表格です。ですが、弱いものに対しては誰よりも親身になれる、そう信じています。
私は、モンスター、冒険者問わず、乞われればできうる限り自身の知識を授けようと思います。私は、モンスター、冒険者問わず、力及ばず敗北したものたちに想いを馳せようとも思います。皆さんの不案内の解消に少しでも、協力したいから。皆さんの弱さに少しでも共感して、寄り添いたいから。
それが、私に与えられた特別な使命なのではないかと思うのです。
あなた方は、確かに敗北したかもしれません。きっと、無念さや悔しさといったさまざまな思いが、胸に渦巻いていることでしょう。さあ、それらをここに置いて故郷へと帰り、誇りを胸に余生を過ごしてください。
あなた方とその思い、私は決して忘れたりはしませんから。