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自分らしく
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彼方から 第三部 第五話 & 余談 第二話

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 バーナダムはその『気配』を咄嗟に感じ取り、直ぐに剣を抜いていた。
「ただ者じゃないっ!!」
 それは、ガーヤも同じだった。
 直ぐに剣を引き抜き、音のした方に身構える。
「済まんっ! ジーナを頼むっ!!」
 戦うことの出来ない者を護る為に、アゴルは剣を抜き、娘を――ジーナハースをゼーナに託した。
 二人を背に、身構え、
「ノリコ! 気を付けろっ!!」
 『いつもの嫌がらせ』を知っているガーヤとバーナダムが、戦闘態勢の入ったのを見やり、彼女に声を掛ける。
「例の奴らかも知れんっ!!」
 不意の戦闘に、即座に反応することなど出来ない、ノリコに危機意識を持たせる為に。

 ――……え?

 イザークのことで頭がいっぱいで、自分が狙われていたことなど、すっかりその念頭から失くしてしまっていたであろう、彼女に……

     ドォンッ――!

「うわっ!!」
 荒く、乱されていく場。
 再び轟いた爆裂音は、皆の集まっていた広間の壁を破壊していた。
 吹き飛ばされ、襲い掛かる破片……
 その破片と共に、剣を携えたワーザロッテ配下の戦士たちが、広間へと傾れ込んでくる。
 与えられた『闇』の力を、駆使して……

          ***
 
「おまえは無理だ! そこにいろっ!! おれが行くっ!!!」
 そう怒鳴り捨て、バラゴは扉を乱暴に開け放つと、部屋を飛び出した。
 だが、『はい、そうですか』と、言葉通り、ここに居られる訳がない。
 イザークはサイドテーブルに立て掛けて置いた自分の剣を手に取ると、鞘から引き抜き、床へと突き立てた。
「くっ……」
 力の入らない体……
 無理に動こうとすれば小刻みに震えだし、満足に動かすことなど出来ない。

 ――こんな時に…………

 それでもイザークは、床に突き立てた剣を支えに無理矢理、ベッドから立ち上がった。
 数人の、異様な気配を持つ者たちが、屋敷内に傾れ込んで来たのが分かる。
 ノリコを襲った、バンナと同じ気配を持つ者たちが……

 ――こんな時にっ!!!

 ノリコが襲われた日の夜。
 あの夜の懸念が、今、正に形となって再び襲い掛かって来ている。
 しかも、まるで……『この時』を、狙い澄ましたかのように……

 ――敵にも、占者がいる……
 
 それは予想し得ることだった。
 でなければ、『ノリコ』の居場所もその名前も、正確に知ることなど出来ない。
 
 ――今、おれが、碌に動けぬ状態であることも……
 ――恐らく占者が占たに違い、ない……

 満足に動かせない体が恨めしい。
 イザークは剣を支えに必死に体を動かし、今、彼女が居るはずの場所へ――広間へと、向かい始めた。

 ――あいつを……
 ――ノリコを護れるのは……おれしか……

 襲ってきたのは全員――バンナのような特殊な力を持つ者たち……
 決して弱くはないガーヤたちでも、退けることは出来ないかもしれない。

 ――ノリコ……!

 バンナの部下に捕まり、必死に助けを求めていたノリコの顔が、脳裏に蘇ってくる。
 あの時は間に合った――だが、今は……
 もしも、助けられなかったら、奴らを退けることが出来なかったら、ノリコは、どうなる……?
 嫌な予感が、イザークの心臓を握り潰しにかかってくる。
「ノリコ……」
 歯を食い縛り、今度は廊下の壁を頼りに、イザークは恐怖を打ち払うかのように歩を進める。
 眼の前から、彼女がいなくなる――
 この手の届かないところへ、連れ去られてしまうかもしれない――
 その、恐怖を……

          ***
 
「ノリコはどこだ! バンナ!!」
 広間に傾れ込むなり、トラウス兄弟の兄が大声で問うている。
「我々の真正面!」
 バンナはすかさず、
「あの娘がそうだ!!」
 驚き、身動き一つ取れずにいるノリコに、その指先を向けた。
 襲撃者たちの眼が、ノリコへと注がれる……
「きさまらっ! やはりノリコが目的かっ!!」
 その眼からノリコを隠すように、アゴルが、そしてバーナダムが、剣を振り上げ向かってゆく。
「させんっ!」
「させるかっ!!」
「させないよっ!」
 三人の戦士――アゴル、バーナダム、ガーヤが、荒々しく、目指す獲物を奪いに来た者たちからノリコを護るべく、応戦し始めた。

 甲高い金属音が、広間に何度も――何度も響き……
 床に敷かれた絨毯は乱れ、調度品の数々が乱暴に倒され、壊されてゆく。
 ゼーナはアゴルに託されたジーナハースをしっかりと抱きかかえ、皆の邪魔にならぬよう広間の隅、壁際へと避難していた。

 ――この連中には、見覚えがある
 ――ワーザロッテの親衛隊だ

 まだ、国専の占者だった頃に、確かに城内で見かけた……

 ――なぜ……!?

 ――なぜ、ワーザロッテがノリコを……?!

 幾つもの疑問が、頭の中を駆け巡ってゆく。
 彼らは確かに、ワーザロッテ配下の親衛隊。
 そして、イザークの話しでは、ノリコを襲った彼らの仲間の一人が、『黙面』とやらに『力』を与えられたと、言っていたという……
 ならば、今回の首謀者はワーザロッテであり、その彼の背後には『黙面様』と呼ばれる『何か』がいる……ということになる。
 そしてワーザロッテは、『黙面様』の求めに応じ、ノリコを手に入れる為に彼らを……
 嫌な予感しかしない……
 『黙面様』と呼ばれる存在が、なに故に、『ノリコ』を求めたのか……

 ゼーナは、眼の前で繰り広げられる戦闘の行方を見据えながら、想像したくもない『答え』が、頭に浮かんでくるのを抑えられなかった。

          ***
 
 ――奴は……

 ――奴はどこだっ!?
 ――ここにはいないのかっ!?

 戦闘域から離れ、バンナは一人、眼を皿のようにして男の姿を捜していた。
 イザークの姿を……
 勿論、命は遂行する。
 同時に、イザークへの復讐も……
 その二つを成功させれば、また、黙面様から『力』を授けてもらえる。
 名誉の回復も成る。
 また……親衛隊の中で、一番の使い手になることが出来る――

 そう……『力』さえ、手に入れば……

 バンナは、これまでの地位と名誉、そして『力』の回復、それだけを求め、願っていた。

          ***

「ノリコッ!」
 双方合わせて六人の戦士が、剣を振り回すには狭すぎる広間の中で戦っている。
 ロッテニーナは咄嗟にノリコの手を掴むと、アニタと共に広間の出入り口に向かって走り出した。
「あ」
 だが、その行く手を、トラウス兄弟の弟が嘲た笑みを浮かべ、回り込み、塞いでくる。
 三人が思わず立ち止まった、その時だった――

「おりゃあっ!!」

 大きな掛け声と共に大きな拳が、いきなりトラウス弟の顔面を殴りつけたのは。
「バラゴさんっ」
「ノリコ、無事かっ!」
 三人を護るように立ちはだかり、バラゴは即座に剣を抜く。
 力強い、大きな背中を前に、三人はホッと、安堵の表情を浮かべた。
「き……」
 バラゴに殴られ、口の中を切ったのか、トラウス弟は口の端から血を流し、バラゴを睨みつける。
「きさまぁっ!!」