二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
自分らしく
自分らしく
novelistID. 65932
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

彼方から 第三部 第五話 & 余談 第二話

INDEX|9ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

「安心しな、大声で泣き叫んでも、誰も助けに来ちゃくれねぇからよ」
 広場の中央付近で女を取り囲み、下卑た笑みを浮かべている男たち。
「そう……それは良かったわ……」
 この状況に置かれても尚、女から消えない余裕の笑み……
 若い男は不機嫌そのものの表情を浮かべ、その輪から一歩退くと、
「痛い目を見せてやりな」
 顎をしゃくりながら、連れて来た男たちにそう、命じていた。
 口元を歪めたいやらしい笑みと笑い声を漏らしながら、筋肉の塊のような腕を見せびらかした男が近付き、
「観念しな――大人しくしてりゃ、なるべく優しく、『して』やるからよ……」
 そう言いながら女の胸座を、掴んでいた。

「……あら、そう……」
 女は、そう言いながら男の手首をそっと掴むと、
「けれど、あたしは今――」
 フッ――と、冴えた瞳で見据え、
「そんな気分では、なくてよ……」
 低く抑えた冷たい声音と共に、掴んだ手首を捩じり上げていた。
「うぎゃあぁぁああっ!」
 耳を劈くような、男の絶叫と共に聞こえて来たのは、鈍く響く、骨の砕ける音――
 捩じ上げられた腕をもう片方の手で押さえながら、呻き声を上げ続ける男を、女は……男の手首を掴んだまま、細く白い腕一本で高々と持ち上げ、
「……うるさい人たちね――骨の一本や二本、折れたところで、死にはしないわ……」
 冷たい笑みと共に、容赦なく振り回し、地面へと叩きつけていた。

 骨の、へしゃげる音が、耳朶に残る……
 集められた男たちの中で一番、上背も、力もある男だった。
 そんな男が、いとも簡単にまるで人形のように――軽々と宙に舞った後、乾き、硬く踏み締められた地面に穴を穿ち、ピクリとも動かなくなった。
「の、能力者か……」
 ……誰かの呟きに、場が、凍りつく。
 眼前の光景が信じられず、誰一人として、身動き一つ、取れずにいる。
 だが、冷静に考えれば……渡り戦士とは言え『普通の女』が、たった一人で何軒もの酒場を、潰せるわけがないのだ。
 相手が『能力者』である可能性を念頭に入れておくのは、至極、当たり前のことように思える。
 女は、地面に叩きつけた男の腕を軽く放ると、爪先をゆっくりと、残りの男たちへと向けた。
 ビクリと体を震わせ、男たちは一歩、退いてゆく。
 剣の柄に右手を軽く乗せ、
「さっき、どうゆう了見かと、訊いていたわね……」
 と、女は退く男たちを呆れたような瞳で見据えると、
「公には許されていない賭博場を、裏で営んでいる酒場を潰して歩けば……あなた達のような輩が、きっとあたしを捜し出して、こうして会いに来てくれると踏んだからよ」
 そう、微笑んだ。
「な、なに?」
 気色ばむ、男たち。
「この街の『夜』を、裏から牛耳ろうとしている者の名前を……その正体を、知るためにね――でも……」
 男たちを見回し、女は、憐れむような笑みを見せると、
「どうやら、あなた達にこれは……」
 剣の柄を軽く叩き、
「必要、無いようね」
 フフッ――と、笑い捨てていた。 

 まだ、怒りを覚えるだけのプライドは残っていたのだろう……
 女に声を掛けた若い男を含めた全員が、あからさまにムッとした表情を見せた。
「何やってるお前ら……どんなに強かろうが、能力者だろうが、相手は女だ! しかも、たった一人だぞ! 全員で一気にかかれっ!! 抑え込んじまえば、こっちのもんだ!!」
 彼らの雇い主であろう若い男が、檄を飛ばす。
 能力であろうが渡り戦士であろうが、女一人に好き放題にされたままでは、面子にかかわる。
 集められた男たちも、それは同じなのだろう。
 金属の擦れる乾いた音を立てながら全員が、腰に下げた剣を引き抜いていた。

 ジリジリと、地面を擦るように歩を進め、女との間合いを詰めてゆく。
 女は不敵な笑みを浮かべると、軽く腰を落とし、剣も抜かずに、身構えた。
「やっちまえっ!!」
 一番後ろに控えた、若い男の怒号と共に、男たちは女に襲い掛かってゆく。

 中天に懸かっていた月が、少し、西へと傾き始めた。
 廃屋に囲まれた広場……
 そこから聴こえてくる悲鳴は、何処にも……誰の耳にも、届くことはなかった。

          *************

 月が、西へと傾いている。
 真円を描いた月明かりの中に浮かび上がった人影が、大きな屋敷の二階にあるバルコニーに、音も無く降り立った。
 そっと、音も無く開いてゆく、大きな窓……
 薄いカーテンが、入り込んだ夜風に靡いていく。
 バルコニーの傍に設えられている大きな天蓋付きのベッドに向かい、小さな溜め息と共に腰のベルトを外し始める人影。
 サイドボードに剣を立て掛けたところで、ふと、人影は部屋の扉の方に眼を向けた。
「まだ……起きていたの?」
 その言葉に促されるように、扉が静かに開いてゆく。
「なに、年寄りは早く目が覚めるものだよ」
 そう言いながらランタンを掲げて入って来たのは、ダンジエルだった。
「お疲れ様だね、エイジュ」
「フフッ……有難う。ご免なさいね、こんな夜夜中に、勝手に動き廻って……」
 ダンジエルはいつもの温かい笑みを浮かべたまま、首を横に振ると、
「それで? 今夜の釣果はどうだったのかね?」
 ベッドに腰を下ろすエイジュに、そう、訊ねていた。
「やっと、餌に喰い付いてくれたわ……まさか、一週間も掛るなんてね」
「そうかね、では、夜遊びも今夜で仕舞いかね?」
「……ええ」
 組んだ脚の上に片肘を着き、エイジュはそう言って、微笑んだ。


 一週間前のあの日。
 皆で、食事に行こうとしていた日……
 クレアジータ邸で働く使用人頭のあの言葉を聞いてから、エイジュは夜の歓楽街に出掛けては、裏で賭博場を営む酒場を、潰して回っていた。
 勿論、『性質の悪い連中』の掃除も兼ねて……
 そういう酒場の集まる場所は、血の気の多い連中も良く集まる。
 たとえ保安員と言えど、一人や二人では危な過ぎて見回りすら出来ない。
 見回る者がいなければ、当然の如く、そこは『無法地帯』となる。
 『闇』を好む者たちの、温床となる……
 エイジュが潰して回った酒場の数は、この一週間で、十数軒にも上る。
 だがそれでも、氷山の一角に過ぎない。
 アイビスクの国、中央政府に近いこの街は広い。
 長く留まることの出来ないエイジュに、出来ることは少ない……
 気休め程度にしかならなくとも、そうすることで少しでも、『闇』の蔓延る速度が緩まるのなら……それで良いと、エイジュは思っていた。

 
「それで、釣り上げた魚は、どれほどの大きさだったのかね?」
 ランタンをテーブルに置き、ダンジエルは椅子に腰掛けながら、話しの続きを催促してくる。
「……ドロレフと言う名を、聞いたことはあるかしら――ダンジエル」
 少し、笑みを潜めるエイジュ。
「ああ、最近、国の重臣クラスになった男で、クレアジータ様に何かといちゃもんを付けてくる、嫌な奴だよ」
 彼女の口から発せられた名前に、本当に嫌そうな顔をして、ダンジエルは溜め息を吐いていた。
 少しお道化て、肩を竦めて見せるダンジエルに苦笑しながら、