二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

遊戯王 希望が人の形をしてやって来る

INDEX|10ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 


神代凌牙の章

「君が最後だ。シャーク、いや、凌牙か。それとも…」
「なんだって構わない。オレはもう、凌牙を捨てて、ナッシュとして遊馬に敗れた。もう何も残っていない代わりに、もう何も背負わなくていいんだ。」
お前が地獄の案内人とは、洒落てるな、アストラル。
そう言って穏やかに笑った凌牙は、疲れ切ったようにも、清々しいようにも見えた。
「オレはこのまま消える道を選ぶ。」
「いいのか。」
「責任は誰かが取らなきゃならねえんだよ。そうしねえと、この戦いで生まれた苦しみや憎しみが行き場を失っちまう。
憎しみは新たな憎しみを生んで、俺たちみたいな奴を作り出しちまう。
ここで全ての憎しみを背負って逝く事が、オレの贖罪だ。」
「君は先ほど、もう何も背負わなくていいと言っていた。」
「これでいいんだ、アストラル。ありがとう。」
そう言って憑き物が落ちたように笑った凌牙は、やはり疲れて見えた。
「未練はねえ。最期に遊馬とも分かり合ってデュエルが出来た。あいつは泣いてやがったが、それでもオレは満足だったよ。」
「解った。けれど、最後に一つだけ、君に伝言を預かっている。」
「遊馬か?あいつの言いそうなことは解ってる、悪いがオレの気持ちは変わら…」
「『待ってるぜ、凌牙』」
それを聞いた途端、凌牙は雷に打たれたように硬直した。
目を見開き、先ほどまでの乾いた笑顔が引き攣って、口元がわななく。
「なん、で…」
「私が課したルールは、『バリアンの力を持つものの死の直後に遡り、死の直前に願った事を問い、叶える事』だった。一度バリアンの紋章の力を体に取り込んだ彼らはどうしても巻き込まねばならなかった。彼は願った。
彼の願いを私が君に伝えることは不可だが、彼が望んだ伝言として、彼が死の間際に言った最期の言葉を私が復唱する事だけならば例外的に許された。」
固有名詞のないその会話の主語が誰であるか、震える凌牙は気づいていた。

「…反則だろう、ここまで来て…!
ほんと、ほんと…あの野郎は嫌がらせしかしやがらねえ…ッ!」
凌牙は顔に手をついて、耐えきれないように叫んだ。
「届いていた…
届いていたさッ!
だが、応えたかったなんて、どの口が言える!?」
血を吐くような叫びだった。
Ⅳの真っ直ぐな想いは、友をその手で討った凌牙にとって劇薬だった。
「解ってた!未練が無いなんざ、嘘だ!遊馬とは最期も分かり合えてた!悔いはねえ、それは嘘じゃねえ!
だが!遊馬とも、カイトとも、本当はアイツとだって、この先何度だって、同じように…!」
「それが君の願いか?」
凌牙は押し黙って、けれども一度決壊してしまった心に耐えきれないようにうめいた。
「オレはどうしたらいい…!」
凌牙を最期に解放したのは、遊馬。
そして最期の未練になったのは、Ⅳだった。
「それに答えるコトは私には許されていない。」
テンプレートな返答しか許されていないこの場を、アストラルは無表情の下で悲しんだ。
アストラルは誰にも気付かれないよう、静かに、静かに、祈った。
──────かっとビング、だ。シャーク。


長い長い沈黙の後、凌牙がようよう、重い口を開く。
「…オレは、自分のした事を、間違いだとは思わない。思ってはいけない。
許されるとも、許されていいとも思っていない。
オレにも、護りたいものがあったんだ。後悔なんて、しない。」
運命の天秤が、ぐらりと傾いた。
「だが、…だが、もしそれでも、願う事だけは赦されるなら、」
『------、------。』
蚊の鳴くような細い声で告げられた、望みを。

アストラルは、決して、聞き落とさなかった。

「解った。」
冷静なつもりで、どうしても歓喜が滲んだ。
シャークは、選んだ。

遊馬!君の願いは、叶った!

アストラルが架けた橋を、凌牙がふらふらと歩いていく。
これでよかったのかと、迷う足取りで。
そして迷いながらも、とうとう戻れない所まで凌牙が行き着いたのを確かに確認するや否や、アストラルは歓喜のままに声を張り上げた。

「シャーク!君は選んだ!光の道だ!」
驚いて振り返る凌牙に、アストラルは叫ぶ。
「君が最後の鍵だった!
君が選ばなければ、君と運命を共にする事を願った君の妹も、君の幸せを願った君の前世の友人も、君と共に在る未来を願った君の友も!
そこに連なる全てが道連れだった!」
「なっ…ッ!」
青くなって目を見開く凌牙に、アストラルは感情のままに叫んだ。
「君が帰って、彼らの望みは叶う!彼らの望みが叶えば、彼らの兄弟や友の望みも!
皆帰ってくる!遊馬は笑顔(すべて)を取り戻す!」
見開かれた凌牙の瞳が、堪えきれないように滲んだ。
凌牙を満たしたのは、泣き出したいほど確かな歓喜だった。
「シャーク!おめでとう!君は間違っていなかった!」

かっとビングだ、シャーク!

その言葉を最後に、凌牙は光の中に消えた。
アストラルの瞼に、赦されたような笑顔を残して。