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遊戯王 希望が人の形をしてやって来る

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ベクターの章

顔を伏せたベクターは告げた。
「俺は、あの馬鹿がどこまで馬鹿でいられるか見届けられる未来を望む。」
「いいのか。七皇の半数以上が君に手をかけられて死亡している。
もし誰か一人でも、死に際に君の死を願えば、君が帰れる確率は低い。
現世に戻るのを優先するならば、他の手もある。」
ベクターは肩を震わせて押し黙った。
迷うように、所在無げに視線を彷徨わせ、けれども諦めたように、呆れたように、あるいは腹をくくったように、大きくため息をつくと、答えた。
「いや、やっぱ正直に言うわ。そう、良かれと思って、だな。
俺は俺として遊馬と馬鹿やる道を選ぶ。」
「もっと低くなった。」
「いいんだよ。他の誰が望まなかろうが、あいつだけはそれを望むんだから。」
それだけは、信じる事にしたんだ。

そうしてベクターは結局一度もアストラルと目を合わせないまま歩き出す。
けれども、一度だけ何もない空虚を仰いで立ち止まると、ベクターは独白した。
「とんだお人好しだ。バカバカしい。
あいつなんか道連れに出来ねえ、けど、俺は結局一つ道連れにしちまったもんがある。」
おそらく、聞かせるつもりのない言葉だったのだろう。
返答を期待していない声の調子は、淡々と事実をなぞるようだった。
「俺の国には、昔くだらないおとぎ話があった。
『人が死んだ時、残される人間の胸が痛むのは、死者が置いていった者の心をちぎって枕にするからなのです。死者は寂しいから大事な人間の心を千切って持って逝くのです。』
生き残った奴らを慰める為だけのくだらねえ御伽噺さ。あなたの胸が痛いのはその人があなたを愛していたからですぅ〜ってな。
けどな、死んで気づいた。心臓があった筈の場所に、馬鹿みてえに熱持ったモンが納まってやがる。」
ベクターは胸に手を当てて呟いた。
「こいつがあれば、俺はもう別に闇の中でもいい。あの馬鹿、本当に最期まで一緒に居やがった。
けど、あいつこれが無えと、ビービーいつまでも泣いて煩ぇだろーがよ。ざまあみろだがな。
だから、仕方ねえが、こいつをあいつに返しに行ってやってもいいかと思った。」
そうしてベクターは、胸に手を当てたまま橋の向こうへ消えて行った。
ベクターの心臓に納まった、ベクターの言う『熱を持ったモン』とやらが、
本当に遊馬のちぎれた心の一部だったのか、それとも。
ベクターの中に生まれた、ベクター自身の心だったのかは、誰も知らない話だ。