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セブンスドラゴン2020 episode GAD

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 奇跡的に傷を負わずに済んだ、というわけではなく、間違いなく頭蓋骨が陥没していよう場所にいたにも関わらず、頭部は裂傷一つなかったのである。
 衣服には、車の窓ガラスに引き裂かれたような跡が残っていたらしいが、皮膚にはやはり、一切の傷が残ってはいなかったという。
 これらは全て、医師による診断書付きの事実であり、データの中にも実際の診断書が添付されていた。
「驚いたでしょ? 事故当時の車は、前を大型バス、後ろをトラックに挟まれて原型を留めていなかったというのに、彼女の体だけは全くの無傷よ。特別な力があって然るべき、そう思わないかしら?」
 ナツメの話が全て事実であれば、件の少女には、普通の人間を超えた力が宿っているのは間違いない。
「ナツメ、ムラクモ機関の諜報能力がどれほど優れているかは知っている。だが、こればかりは……」
 国際警察でさえも、全く足取りを掴めない欧州一の殺し屋に接触する機会を作れるのが、ムラクモ機関の諜報能力の高さである。
 そんな機関の持ってきた情報に疑いの持ちようがないが、なまじ、顔見知りであるために、トウジは信じることができなかった。
「それを見極めるためにあなたがいるんでしょう。それじゃ、頼んだわね、トウジ」
「待てナツメ、まだ行くとは……!」
 ナツメは、トウジの返事を待つことなく去っていってしまった。
「全く……」
 トウジは大きくため息をつき、目に入ってくる少女のプロファイルを見る。
 写っている顔写真は、約二年前とあまり変わっていない。
ーー四季、本当に能力者なのか……?ーー
 大事故を無傷で生き延びたという少女の顔は、とてもそうは思えないほどに普通の女学生のものだった。
 時は過ぎ、二〇二〇年、四月二十日、時刻十四時五十分。新宿都庁前。
 都庁前広場には、人集りができていた。
 十代から二十代後半の男女が集まり、これから始まる何かを待っていた。
 都庁周辺は、自衛隊による厳重な警備がなされ、野良猫一匹たりとも通さない体制が敷かれている。
 集まった若者らは、ひそひそと話し合っていた。
「なあ、あんたも同じか?」
「ああ、ムラクモ機関? とかいうののメンバーだって奴に招待状をもらったんだ」
「何つったっけ? 名前忘れたけど、白髪の学ラン姿の奴が急に現れて、お前は能力者だとかなんとかって……」
「自衛隊までいるなんて、まさかドッキリじゃないよな?」
「てか、アイツじゃね? オレらを呼び出したのって」
 若者の内の一人が、生け垣の側に立っている白髪の少年に指差した。
 それは、紛れもなくトウジ本人であった。
 トウジは遠巻きに、ざわつく若者らを見ていた。
 ここに来ているのは皆、一月前にトウジが直に接触し、これから開始されるムラクモ選抜試験の案内状を出した者たちである。
 能力のある者に絞って案内状を渡してきたが、ここにいる者たち皆がS級能力者というわけではなかった。
 しかし、全くの無能力者というわけではなくA級以上、凡人よりも少しだけ優れた力を持っている。
ーーあいつは……ーー
 トウジは、若者の話しの輪に混じって談笑する、ある少女を見つけた。
 黄色のへそ出しトレーナーに、独自のダメージ加工を施したホットパンツ姿であり、首にゴーグルを下げている。
 以前に接触した時とかなり様相が変わっていたが、編み込んだ赤い髪だけは変わりがなかった。
ーーターゲット『D』、招集に応じたか……ーー
 こうして見ているだけだと、とても欧州最強と言われる殺し屋だとは思えない。人殺しを生業としていながら、人との関わりは良くできている。
 人当たりが良いように見えるが、これが彼女の殺しの手口の一つであった。
 人懐っこい少女を演じながら、油断した相手をナイフで喉笛をかっ切る。これが彼女の得意とする殺害方法である。
 無垢な笑みを浮かべているが、それは全て演技であろうと、トウジは思うのだった。
 第一のS級能力者の候補、ターゲット『D』は姿を見せたが、この中に、トウジの待っている者はまだいない。選抜試験開始十分前を切っているが、現れる気配がなかった。
ーー四季、やはり来ないか……ーー
「おう、トウジ!」
 やたらと響く男の声がトウジを呼んだ。
「ガトウ、何の用だ?」
 トウジに声をかけたのは、臥藤玄司(がとうげんじ)といい、ムラクモ機関、機動十班の班長を勤める男である。
 顔に残った大きな傷痕がその強面をより恐ろしくしているが、部下の扱いがとても優しく、人望のあるS級能力者であり、対マモノの戦闘員であった。
「相変わらず愛想のねェガキだな、お前は。まァいいけどよ。で、どうしたんだよ? いつにも増して難しい顔してよ」
「……いや、大したことではない。ところでガトウ、今回の試験でどれくらい合格者が出ると思う?」
「んァ? そうだなァ……」
 ガトウは、今もまだざわつく若者たちを見渡した。
「トウジが連れてきたんだ、全員合格でいいんじゃねェか?」
「適当だな……」
「戦いの才能なんざ、実際に戦わなきゃ開花しないもんだぜ? 少なくとも、お前のお眼鏡に敵ったんなら、役に立たねェってこたァねェだろ?」
 ガトウは、もっともらしいことを言う。
「そうは言うが、ここにいるのはせいぜいA級、行ってもAプラスといったレベルだ。マモノと戦う力は多少はあるだろうが、俺たちのように一人で何体も相手する事はとても……」
「まあまあ、それでもいねェよりゃあマシだろ? オレらだけで日本中のマモノの相手なんざしてらんねェからな」
 それよりも、とガトウは無理矢理話題を変える。
「ナツメ嬢に頼まれて、タメの女のスカウトに行ったらしいな、お前。ひょっとして、その女が来るのを待ってたんじゃねェのか?」
「……全く、どいつもこいつも下らんことを。ナツメから何を聞いたか知らんが、四季とはただ中学校が同じだった、ただそれだけだ」
「やれやれ、冷めてんなァ……すんげェ偶然だと思わねェのか? タメだった女が、それもS級能力を持って機関の仲間入りしようとしてる。運命だと思わねェか?」
「くどいぞ、ガトウ。……まあ、四季の力が気にならないかと言われたら、その答えは否だ。少しばかり武道の才能があるだけの奴が、本当にS級の能力を持っているのか、とな……」
 トウジは一月前、実際に彼女と会っていた。
 何の前ぶれなく現れたかつての同級生に、大層驚いていた。
 聞くところによると、彼女は昨年、事故以来二人で暮らしてきた祖父を老衰で亡くし、今は一人暮らしをしているとの事だった。
 両親や祖父の遺産は多く、高校生活を送っていくぶんには十分賄える額があるが、彼女はアルバイトに従事しているらしかった。そのため、高校では部に所属せず、類い稀な武道の能力は、今は発揮していない。
 当然の事ながら、トウジの言葉は信じられない様子を見せていた。しかしながら、事故当時の記憶はあったようで、それが異能力によるものではないか、と自ら考え付いた。
 あらゆる事を白黒はっきりさせたがる性分があり、それは中学生の頃から変わっていなかった。
 そのため、この選抜試験には来る意思を見せていた。しかし、アルバイトと重ならない事が条件だと言うことだったが。