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灼青と珀斗

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 名馬に相応しい、美しい立ち姿だ。
 鬣や尻尾も、よく梳かれていて、風に靡いている。
 そして何より、肩や臀(しり)の筋肉が隆々とし、張っていた。
 初めて靖王府に来た頃とは、まるで別の馬だった。
 それだけ、林殊が珀斗を走らせた、という事なのだ。
 気まぐれで、決して長くなど、走らぬ馬だったのに。
「珀斗をどうやって走らせたのだ?。思うように、言う事を聞かなかっただろう?。」
「ふふ、、珀斗の好きに、走らせたんだよ〜。
 走るのは好きみたいだったから、好きな様に、好きな所に。そして軍馬に使う、いい餌を、たっぷり喰わせてやったのさ。毛並みが良くなっただろ?。馬売人からはあんまりいい餌、喰わせて貰えなかったのかもな。運動も、あまりさせて貰ってなかったのかも。
 ずっと毎日、珀斗と走って、家を空けてたから、父上に怒られる怒られる、あはははは。
 段々と珀斗も、私の事が害の無い人間だと、分かって来たみたいで、振り落とそうとしたり、しなくなったんだ。
 それからは、言う事を聞くようになったし、振り落とされる事は無くなった。何より、私の行きたい方向や、させたい動きを察知して、動く様になったんだ。脚は速いし、やっぱり珀斗は名馬だったのさ。その辺は、景琰の目が、確かだったな〜。」
 突然、林殊は、何かを思い出したようで、顔が曇る。
 「でもさー、景琰、私が『黙って持ってった』、みたいな事、触れて回ってた?。私が、景琰の馬、奪っていったって、祁王や蒙哥哥や皆に、散々『景琰が可哀想だ』言われたんだけど!。そんなに酷いかなー、ちょっと『貸して』って言っただけだよなー。」
林殊は、口を尖らせて、頬を膨らます。
「珀斗を連れて行った時、私達の回りに沢山、人が居たじゃないか。恐らく、見ていた者が言ったんだろう。」
「馬、連れてった位でさー、『取った』なんてさー、いかにも私が、悪いヤツみたいじゃないか?。あんまりだよなー。私は、景琰の物なんて、取ったりしないよ。」
「ん────っ??。」
 靖王の眉間に皺が寄る。
「いや、私は借りてるだけだろ?、、、、ま、返してないのもあるけどさ、、、、、ほんのちょっとだけだよな、、ゴニョ、ゴニョ、、、。」
「ぷっ、、、、。」
 林殊の言葉の、歯切れの悪さに、つい靖王は吹き出してしまった。
「珀斗が、言うこと聞くようになったら、景琰の元に返すつもりだったってば。珀斗を取るつもりなんか、全然無いよ。ほんとだって。灼青の方が良い馬だったら、交換してやろうとか、、全っ然、考えてもいなかったし。」
「あはははははははは、、。」
「なんでそんなに笑うんだよ!。オイッ、景琰、笑い過ぎだろ!。」
 珍しく、必死で言い訳をする林殊の姿に、靖王は笑いが止まらなくなってしまった。
 祁王や大勢の他の者に、『酷い奴』と言われたのかも知れない。





「は──────っ、、つかれたぁ────。」
 二人は、湖の側に広がる草原に、大の字になって転がった。
 灼青と珀斗には、鐙(あぶみ)も外し、自由に遊びに行かせた。珀斗は、林殊が呼べば、帰ってくるだろう。そして灼青は主には、背かぬ。
「なぁ、景琰、何であんな変な馬買ったの?。最初から、祁王に相談したら、灼青みたいなちゃんとした馬、貰えたろうに。」
「え、、、っと、、前々から、自分の思い通りになる馬が、欲しくて、、、。」
「あ〜、、前の馬は、皇宮に返しちゃったものなぁ。」
「うん、、、自分で選んで買った馬に、乗りたかったんだ。」
「あっ、、、何となく分かる、、その感じ。そっか、、自分で、、、。」
 選び放題の、赤焔軍の軍馬から、好きに選んできた林殊には、靖王がとても大人びて見えた。
「珀斗は、素性は良いように見えたのだ。、、、、まぁ、、その、、、、、安かったし。」
「金か!、それこそ祁王に言えば、、、。私の父上に言ったって、きっと用立ててくれたぞ。」
「、、、、、、それでは、、嫌だったのだ。」
「えっ、、何で?。」
 金銭面で、困ったことの無い林殊には、中々察することの難しい事だった。林殊は、金銭や物資が無ければ、然るべき人間に、出させれば良いと思っていたのだ。
「大人と、見られたかった。『靖王はもう立派な大人で、一人でやっていける』って、思われたかったのだ。
 特に祁王兄上には、、、、。
 結局、、祁王兄上に、馬を買ってもらったけど。」
靖王は恥ずかしそうに、鼻を掻きながら、続けた。
「珀斗を買う前は、大人として見て欲しいと、焦る気持ちばかりで、、、そこにたまたま、馬売人が来て、珀斗を見せたのだ。少し捻くれた所があったけど、良い馬だと思ったんだ。
 、、、、笑うなよ。」
林殊は笑うどころか、じたばた一人、頑張っていた景琰に、大人になろうとしている『逞しさ』、のようなものを感じていた。
──私は、求めれば、何でも手に入る。金や物の苦労なんてした事が無いや、、、。景琰は皇子だけど、そんな苦労を、してたんだ。王府を与えられて、自由になって、ただ羨ましいと思ってた。
、、、そうか、、独立って、大変なんだな、、。初めのうちは、母親やその実家から、援助されたりするものらしいけど、、確かに、母親の静嬪には、そういった資金が、、、、、。
 景宣や景桓だったら、景琰より年上のくせに、きっと陛下に、上手ーく出させたりするんだろうな、、、。──
 靖王の方が、兄二人はより、余程、大人びていて、立派だと思った。
「えっ、、何、、何か顔に付いてるのか、小殊??。」
つい林殊は、靖王の顔に見入ってしまった。
「、、あっ、、いや、、何だか、立派だなぁ、って思って。景琰が、凄く大人な感じに、見えた。」
「ふふ、、失敗ばかりだ。祁王からは、きっと呆れられてる。」
 林殊は、がばりと起き上がり、真剣な視線を靖王に向けた。
「いや、、何だか景琰が羨ましい、、、物凄く。、、いいなぁ、、私も早く大人になりたい。」
「えっ?。」
 靖王は、林殊から、ついさっき、灼青を見に行った時の、きらきらとした瞳を、向けられる。
 それは非常に、こそばゆい様な、、、、。感じたことも無い、甘酸っぱさを醸すような、、、。
 じっと見つめる林殊に、靖王は、咄嗟に何を言ったらいいのか、頭に浮かばず、微笑みを返すことしか出来なかった。
 真っ直ぐに見つめる林殊の目。
 靖王は、喉の辺りが、ぎゅっと締められるように苦しい。この林殊の瞳に、鼓動が高鳴る。林殊が小さな頃から、そうだったのだ。
 可愛い弟、、、林殊は靖王を、兄とは呼ばないが、兄弟同様に育ったのだ。兄弟以上に互いを理解していた。

「私が十七になっても、私は景琰みたいに、独立して、居を構えられる訳じゃない。もし、、、もし景琰みたいに独立出来たら、あれやこれや、父上や母上に言われなくなるんだぞ。、、、羨ましい、、、。」
「小殊が羨ましいのは、そこか!。」
「うん、、、それに何か、靖王府、かっこいい、、。」
「そりゃ、祁王兄上が直々に選んでくれた屋敷だからな。皇宮とは離れてるけど、以前、梁の将軍が、使っていた建物と敷地だし。」
「、、、、。」
じぃっと、靖王を見つめる林殊。
「え、小殊、、、、何?。」
「いいなぁ、、、。」
作品名:灼青と珀斗 作家名:古槍ノ標