二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

終わりのない空5

INDEX|4ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

こんな風に笑った顔を見たのは初めてだった。
今まで、笑みを浮かべていてもどこか本気ではなく、何を考えているのか分からなかった上官の、素の表情を目の当たりにして、驚くと共に何処か懐かしさを感じた。
『何だ…?どうして…懐かしい?誰かに…似ている?』
「どうした?アムロ大尉」
「えっ?あ、いえ…少佐がそんな風に笑うのを初めて見たので…」
アムロの言葉に、ラグナスは一瞬、驚いた表情を浮かべた後、納得した様に頷く。
「…ああ、そうかもしれないな…。こんな風に笑うのは久しぶりだ。君の前だからだろう」
「え?」
アムロの頬に手を添え、優しい表情で見つめてくるラグナスにドキリとする。
「しょ、少佐?」
「君は綺麗な瞳をしているな。あの子が惹かれた気持ちが分かる」
「…あの子?」
アムロの問いに、ラグナスは笑顔を向けるだけで答えなかった。
「さて、少し散歩でもするか?このまま君と部屋に二人きりでいたら手を出してしまいそうだ」
「少佐!」
冗談混じりに言いながらも、気分転換をさせてくれようとするラグナスの優しさを感じて、アムロは素直に頷いた。

◇◇◇

 ホテルの裏に広がる庭園を歩きながら、アムロは地球の青い空を見上げる。
「綺麗だ…」
コロニーや月面都市での人工のものではなく、本物の空。
久しぶりに見上げる青空に心が洗われる様な気がする。
透き通る様なスカイブルー。それはまるでシャアの瞳の色だった。
「綺麗なブルーだ。まるでクワトロ大尉の瞳の様だな」
「え⁉︎」
同じように空を見上げていたラグナスに、自分が思っていた事を言われて驚く。
「君がそんな風に思っている気がしたが、違ったか?」
「どうして⁉︎」
「ふっ、当たっていた様だ」
揶揄う様に笑うラグナスに、やはり油断ならないと思う。
「警戒するな。別に心を読んだとか、そう言うのではない。君は思った事が顔に出るからな。ニュータイプでなくてもそれくらいは分かる」
「なっ」
クワトロに指摘された事をラグナスにも言われ、自分がそんなに顔に出るのかと、頬を両手で押さえて困惑する。
「ふふ、君は軍人には向いていないな」
そんなアムロを見つめ、クスクスと笑いながらラグナスが言う。
「まぁ、私も人の事は言えないが」
「少佐が?」
佐官にまで上り詰めた軍人であるラグナスの意外な言葉に驚く。
「まだ若い頃、家族を養う為に…生活の為に入隊しただけだ。その守るべき家族も戦争で失い、その後はただ惰性のまま軍人を続けていた。反連邦に入ったのも、ブレックス准将に恩義があったからであって、君同様それ程までに思い入れがあるわけでは無い」
「ラグナス少佐…?」
「幻滅したか?」
「いえ、そんな事…」
「先ほど君に“守るべき故郷も、愛する人もいない人間が戦うのは不自然だ”と言われてドキリとしたよ。まさに私自身がそれだからな」
「そんな…」
「しかし、誰かがやらなければならない事でもある。こんな私の手でも少しは役に立つのならば協力しても良いと思った」
「ラグナス少佐…」
「上に立つ者にはそれなりの志しは必要だ。しかし、末端の我々が大きな志しを掲げて命を懸けるのはやはり難しい。皆それぞれ自分なりの目的が有れば良いのではないか?」
「自分なりの目的?」
「そうだ、小さな事で良い。自分が命を懸けても良いと思える目的だ」
「小さな…」
「君にその言葉を言った人間は何の為に戦っていたんだ?」
「彼女?……彼女は…」
ララァはあの時、何と言った?
「…そうだ…自分を救ってくれた人の為に戦っていると…言っていました…」
あの時は“たったそれだけ?”と思った。しかし、ララァにとってはシャアの役に立つ事、シャアを守る事が最優先事項だったのだ。戦争の勝敗など関係なく、ただ、愛するシャアの為だけに…。
その事に、アムロの胸がツキリ痛む。
「また何か考え込んでいるのか?」
ラグナスに額を軽くコツンと叩かれ我に帰る。
「…いえ…」
「まぁ、君にその言葉を言った“彼女”も私的な目的で戦っていたという事だろう?」
「そう…ですね」
それ程までにシャアを愛していたララァ。そんなララァを、この手で殺してしまった自分がシャアの隣にいて良いのだろうか…。
俯くアムロを、ラグナスが優しく抱き締める。
「あまり考え込むな…」
「はい…」
その優しさに触れ、ホッと息を吐き、ラグナスの胸に身体を預ける。
『少佐の胸の中は安心する…』
父や母にこうして抱き締められた記憶はほとんど無いが、きっとこんな感じだったのだろう。
アムロはラグナスの温もりに包まれながら、そっと目を閉じた。
と、その時、アムロの胸に、眩い光が飛び込んでくる。
それに驚き、思い切り顔を上げてその気配のある方向へと視線を向ける。
「アムロ大尉?」
ラグナスの声すら遮る程の強烈な存在感。
冷静さの中に、熱く眩しい光を持った心。
アムロを惹きつけるその存在に胸が熱くなる。
「…シャア…」
「ふ、帰ってきた様だな」
アムロより数秒遅れて、ラグナスもその存在に気付く。
そして、溜め息を一つ吐くと、腕の中のアムロを解放した。
「出迎えにいくか?」
「…はい!」
嬉しそうに答えるアムロに、ラグナスが肩を竦める。
「やれやれ」


 ホテルの正面玄関で、ブレックス准将と共にエレカから降りてきたクワトロの姿を見つけ、アムロの顔に自然と笑みが浮かぶ。
しかし次の瞬間、アムロは殺気を感じてその気配の方向へと視線を向けた。
それは隣にいたラグナスも同じで、殺気の向かう先であるブレックス准将とクワトロの元へと駆け出して叫ぶ。
「伏せろ!」
同じく殺気に気付いたクワトロが咄嗟にブレックス准将を庇い地面に倒れ込んだ。
「准将!」
その刹那、銃弾がクワトロの腕を掠める。
「っ!」
「クワトロ大尉⁉︎」
そのまま全身でブレックス准将を庇うクワトロに焦りつつも、アムロは銃を取り出して狙撃手に向かって発砲する。
かなりの距離はあったが、銃の射程距離内だ。
アムロは正確に狙撃手の腕と足を撃ち抜き、准将のSP達に取り押さえる様に視線で促した。
そしてすぐさまクワトロの元に駆け寄る。
「クワトロ大尉!准将!大丈夫ですか⁉︎」
「大丈夫だ、アムロ大尉」
クワトロはラグナスと共に准将に手を貸して立ち上がらせる。
そのクワトロの左腕には血が滲んでいた。
「クワトロ大尉、怪我を!」
「大丈夫、擦り傷だ」
心配するアムロに、クワトロが笑みを浮かべて答える。
それでも心配で、傷口を確認して、ようやくアムロの身体から力が抜けた。
「良かった…」
「心配をかけた」
アムロの髪をクシャリと撫でながらクワトロが優しく答える。
隣にいたブレックス准将もアムロに礼を告げる。
「助かったよ。ありがとう、アムロ大尉」
「いえ、ご無事で何よりです」
「しかし、見事な腕だな。この距離で狙撃手を仕留めるとは」
それにはラグナスも同意する。
「全くです。それも更なる狙撃と逃走を防ぐ為に腕と足を確実に撃ち抜くとは。お蔭で殺さず生け捕りに出来ました。これで黒幕を吐かせられます」
「そんな…ただ、必死で…」
クワトロが撃たれて頭に血が昇った。しかし、銃を手に取り、狙撃手をロックオンした瞬間、冷静に照準を合わせる自分がいた。
作品名:終わりのない空5 作家名:koyuho