二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

その先へ・・・5

INDEX|2ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

「もちろん!うれしいなぁ、ぼくが包んだペリメニおかわりしてくれるなんて!さ、どんどん食べて!」


あたたかな料理をおなかいっぱい食べ、ユリウスと一緒に淹れたお茶を飲み、ひとしきりはしゃいだジーナは母のベッドにもぐり込み眠ってしまった。
これはいつもの事だった。普段は幼いながらも母を守る為に気丈に振舞っているジーナだったが、ユリウスやガリーナが来て楽しい時間を過ごすと年相応の少女に戻り、母に甘えてベッドにもぐり込み寝入ってしまうのだ。
「こんなぼくでも安心してくれるのかな、ジーナは」
ユリウスはジーナの柔らかな髪を優しく撫でてやる。
「本当にありがとう、ユリウス。あなたが来てくれるのを楽しみにしているのよ、この子」
「そうなの?そんな風に思ってくれるなんて、ジーナだけだよ」
ジーナのピンク色に染まった頬を優しく撫でると、自然とユリウスにも笑みが浮かぶ。
「‥‥ユリウス、あなた変わったわね」
「え?」
「初めて会った時と違って、生き生きしてるわ。それになんだか輝いてる。何か良いことあったみたいね」
思いがけないマルーシャの言葉に思わず頬が染まる。

あった。
良い事が確かに……。

ユリウスの様子に微笑んだマルーシャが尋ねる。どんな事?と。
更に真っ赤に頬を染めたユリウスは立ち上がり、ハンガーにかけてあるコートを手に取った。
「このコート、もらったんだ」
「誰からもらったのか、聞いてもいいかしら?」
「……アレクセイが、自分の着ていたコートをくれたんだ。このコートを着るように……って」
「アレクセイって……、前に言っていたあなたの過去に繋がる人よね?」
「うん」
「まぁ……そうなのね」
「……うん」
マルーシャは穏やかな瞳でユリウスを見つめた。
「アレクセイは背が高くて大きいから、彼のコートをぼくがそのまま着るとぶかぶかでおかしいって、ガリーナが少し手直ししてくれたんだ。本当は直してほしくなかったんだけど、そうしないと目立つから外は歩けないって言われて……」
「……そう」
「うん」
愛おしそうにユリウスはコートを見つめ、白い手でそっと襟元を撫でた。
コートをかけてくれたあの日から、アレクセイの来訪は無い。
会えない時間が長くなればなるほど、様々な思いが頭をよぎる。
疲れがたまってはいないか。ケガをしてはいないか。危険な目にあってはいないか。
自分の事を忘れてはいないか。疎ましく思っていないか。……また、ドイツへ連れて帰るなどと思ってはいないか……と。
そんな不安がつのった昨夜、ガリーナに誘われるままに夜更けから鶏ガラを煮込みだし、ペリメニを夜通し作ったのだった。

「不安に思ったり、自分だけでは解決出来ない思いに捕らわれた時はね、こうして手を動かすに限るの。没頭しているとね、幾分心が和らぐのよ。料理じゃなくてもいいのよ。裁縫だって、掃除だって、なんでもいいの。要は、気分転換出来ればいいんだから」

二人でせっせと手を動かし、たわいもない話をしながら作ったペリメニは大量に鍋に浮かび、こうしてユリウスはマルーシャの家へとおすそ分けにきたのだった。
「あなたみたいな綺麗な女の人が男の人のかっこうをして、大きすぎるコートを羽織ってたら余計にみんなびっくりするわよ。ガリーナに手直ししてもらって正解だわ」
コートを見つめるユリウスの瞳が少し不安気なのに気が付いたのだろう、マルーシャが優しく声をかけた。
「大丈夫よ。手直ししたって彼のあなたへの気持ちは何も変わらないわ」
「……そう……かな?」
「そうよ!それにね、直した方がむしろあなたの身体にフィットして、彼の事を感じられるんじゃない?」
マルーシャはユリウスの細い肩をそっと撫でて微笑んだ。
大きなアレクセイの大きなコート。
これに包まれていると、アレクセイに抱きしめられているような感覚が蘇る。
再会した時……強い力で引き寄せられ、抱きしめられたあの時に湧き上がってきた不思議な安心感と愛おしさ。
そして……ベッドルームで思いがけず引き寄せられた時の甘やかなしびれ。
優しく頬を包まれ、熱っぽい瞳でまっすぐに見つめられたあの時、ユリウスの心は高鳴った。
強い力で引き寄せられ、彼の手のひらの熱がユリウスにも移り自然に体がほてった。
……くちづけを受けると思った。
けれど飛び込んできた知らせに、アレクセイは飛ぶように出て行ってしまった。
あの時のアレクセイを思い出すだけで、ユリウスの心も体も甘く疼く。
こんなにも強く愛おしいという想いが体を支配するとは思わなかった。
こんなにも強く……一分一秒でも長く一緒にいたいと思うなんて思わなかった。
ユリウスは、自分の心を占めるその気持ちを どうしてもアレクセイに伝えたかった。

愛してる。ずっと側にいたい……と。

「ユリウス……」
マルーシャの声にハッと顔を上げた。
「アレクセイの心を信じて、彼と幸せにね。長い間かかったのでしょう。もう幸せにならなくては」
「マルーシャ……」
「大丈夫。私はアレクセイに会ったことが無いからあなたとガリーナの話から想像するだけだけど、アレクセイはあなたの事好きよ。それもどうしようもなくね。だから自信を持って!」
ユリウスはコートを羽織り、アレクセイのぬくもりを思い出すように自分で自分を抱きしめた。
そのぬくもりが、不安な気持ちを吹き払ってくれることを祈って。



作品名:その先へ・・・5 作家名:chibita