その先へ・・・5
「どういう事だ」
「どうもこうも無い。それはおれが聞きたい事なんでね」
「レオニード・ユスーポフに関係などあるはずがない。あんた何を言っているんだ?」
関係はある。
ユリウスだ。
だが、ルウィが彼女の存在を知るはずもない。
ましてやユリウスが侯爵と関係がある事は、自分とズボフスキー夫妻しか知らないからだ。
「おまえが逮捕された時、本当は処刑されるはずだったことは知ってるな。それが助命嘆願によりシベリア終身流刑に減刑された。助命嘆願を書いたのは、レオニード・ユスーポフだ。さすがにその書類は読んだだろう?おれはミハイル・カルルナコフからその事実の連絡を受け、ヤツとおまえの関係を調べた」
「なんだと……。おまえが?」
「おまえらは同じ貴族だからな。そっちの世界での関係を調べた。が、お前たちの交流は一度もない。おまえの兄貴との関係もない」
ドミィートリーの事に話が及ぶとアレクセイの表情がより厳しく変わった。しかしルウィは顔色一つ変えず淡々と話し続ける。
「で、ありとあらゆる情報を当たって、やっと出てきたのが3つだ。かつてあの邸に潜入させていたスパイからの報告。アルラウネの暗号文。そして貴族の奴らの間で囁かれているうわさ話だ。潜入させていたスパイからの報告はアルラウネ宛のものだ。これはおれの許にある。おれが欲しているのはアルラウネの暗号文だ。ミハイルが持っているはずだが、当然見たよな」
「なん……だと……」
ミハイルの書類は整然と整理されてはいたが、その量は膨大でいまだすべてに目を通せてはいなかった。
「ふん、その様子じゃ見ていないな。ま、そうだろうな。あんな計画に熱中してりゃぁ」
「きさま……!」
ルウィの肩を掴んで胸ぐらを掴んだが、跳ねのけられた。
「その3つに共通するのはどれもドイツ人の女だ。金色の髪の男装をした女。知り合いか?知り合いだよな!」
ユリウスの事を知っている!
アレクセイの顔色が瞬時に変わった。それを察したルウィが初めて感情を表し、薄笑いを浮かべ楽しそうに話し続けた。
「いい女みたいじゃないか?ええっ?ドイツで知り合って、連れ帰ったか?ユスーポフ家に潜入させて色仕掛けでお前の命乞いでもさせたのか?アレクセイ・ミハイロフ」
「なんだとっ!」
「ふん!残念だったな。おまえの女は今や侯爵の愛人だ。侯爵は相当その女に入れ込んでいるらしいぞ。掌中の珠の様に大事にしていて、邸の奥にかこって滅多に人前に出さないそうだ。とびきりの美人らしいな!その愛人が侯爵夫妻の離婚原因だそうだ。ニコライの不興を買っても別れずいたから、ニコライが姪に離婚を進め別れさせたんだと。貴族どものくだらないうわさ話もたまには役に立つもんだな。お前の女はお前がシベリアに行っている間に侯爵に抱かれ、さんざんいじくりまわされて、お前の事なんか忘れちまったらしい。きっと今頃も2人でヨロシクやってんだろうよ!は!羨ましいだろう!ええっ?!」
「……!」
「やめろ!アレクセイ!!」
ズボフスキーが叫んだ時には、ルウィは左頬をまっすぐに打ち抜かれ、ドアにからだを激しく打ち付けた後だった。
「お、おい、おまえ……」
ルウィを殴り付けたのは激しい怒りに体を震わせ、肩で息をしていたイワンだった。