宇宙に虹、大地に黄昏
直後、金色の長髪をもつ、華奢な少女がこちらへ向かって流れてくるのが見えた。
ルミナだ。
大方、収容作業のチェックに来たのだろう。
「メッセニアの方はもう終わったのか?」
メッセニアとは、クロノグラフよりも前からあるグループのことで、リディアという女性パイロットが率いている。
フォルティスは流れてきたルミナの肩を受け止め、チェック済の書類を手渡した。
「あっちなら終わったよ。だから面白そうな新人パイロットさんとお話をしに来たんです」
「きみに気に入られるほどのこと、覚えがないな」
「それは私が決めるの。それにね?リディアはちょっと一方的だから苦手・・・」
「ハハ・・・!きみへの興味が、そういう態度をさせているんだろうな」
フォルティスは、ルミナの明快な人物評に起伏に富んだ心柄を感じ取り、中立を演じた。
こういう純粋さは、苦手なのだ。
敵にするのは怖いし、味方になるのも厄介だということだ。
「そういう場所だから、あなたが留まってくれて助かったな。あなた、本当はどこか行くつもりだったんでしょ?」
「・・・まあ、ぼくにも仕事があるからね」
「仕事のために、初陣で2機も撃破できる才能を放棄するの?それって悲しいことじゃない?」
(暴力の才能が開花したと、認める方が悲しいじゃないか・・・!)
フォルティスの衷情はこういう思いであったが、これを誤魔化してしまうのが人間関係である。
ルミナの顔が和らいでいたこともあり、険悪な声を出すのも馬鹿らしくなった。
「なら、連邦軍にでも就職するか?ぼくがそういう人間じゃないのは、この前の話で分かったはずだ」
「前から思ってたけど、そうやって本音を隠すの、あなただからなの?それとも、大人だから?」
「・・・・・悪い。謝るよ。けれど、ぼくにニュータイプ的な直感はないよ」
図星を吐かれたフォルティスは、次の言葉を絞りだすことができず逡巡した。
だから取り敢えずで謝罪したのだ。
これもフォルティスの癖である。
しかし、ルミナはフォルティスの謝罪などは無視し、手元の書類を覗き込んでいた。
「たしか、人間は元々、大脳皮質の50パーセントしか使ってなかったけど、宇宙に出て残りの部分を使うようになったのがニュータイプだったよね。あなたの言葉を借りるなら、もう少し様子をみてもいいんじゃない?」
ルミナはそう言い残し、会議室のある通路へ向けて、デッキの手すりをけった。
「俺はまだ、大人になれていないんだ・・・」
遠ざかる少女の姿態を見つめて、独りごちた。
作品名:宇宙に虹、大地に黄昏 作家名:アスキー