宇宙に虹、大地に黄昏
2人がノーマルスーツ・ルームに入ると、先客がいた。
メッセニア所属のパイロット、リディアとコリンズだ。
「遅かったじゃねえか、エースさんよ」
コリンズがぞんざいな言い方をした。粗野な振る舞いをする、典型的な男なのだ。
フォルティスは、こういう物言いは嫌いだが、受け流せるだけの度量は持っていた。そのため、脇目も振らずにパイロットスーツが収納されたロッカーへと直進することができた。
「このあたりには、ここと同じような資源衛星がゴロゴロしてるから、正確な位置は特定されてないと思いたいね・・・!」
そう言うリディアは冷静に見えたが、血気盛んな本性は隠し通せていなかった。
その態度が場の空気に影響を与えているところを見て、彼らのリーダー格が彼女であることを改めて理解した。
そのリーダーが迎撃戦の経験が無いフォルティスを案じてか、作戦もどきを説明してみせた。
姉御肌で、いざという時は優しい人なのだ。
「こういう状況は初めてじゃないんだよ。今までにも何度か奴らが哨戒して来たんだ」
「工作ブロックに古い巡洋艦があるのは知ってるかい?いざという時は、それを使って対処してるのさ」
「砲台代わりにしていると?」
「ミノフスキー粒子だよ。こちらの場所を悟られる前に撒いてしまうのさ」
ミノフスキー粒子とは、光の粒子にゆらめきをあたえ、電子機器の機能を減殺させる粒子のことである。これがある限りは、無線通信はおろか、レーダーさえも効力を失うことになる。
しかし、ミノフスキー粒子を戦闘濃度で散布するというのは、戦闘開始を意味するものであり、軽率にとれる手段ではない。
つまり、最終手段なのである。
直後、ノーマルスーツ・ルームが軽く振動し、4人の体が跳ねあがった。
リディアとコリンズは、天井部分を支えにして体が流されるのを防いでいた。
訓練されているのである。
宇宙に住まうとはいえ、宇宙生活の訓練などは受けていない若輩2人は体の制御を失いかけていた。
「ショック・ウェーブか?」
連邦軍も、ジオンの残党らしきものが居ついているという確証は得ていたが、位置の特定まではできなかった。
そのため、宙域一面に探りを入れてあぶり出そうというのである。己が狩る側だという高慢を感じさせる豪華さである。
「こいつは、やるしかねえぞ・・・!」
その声は、コリンズの性急な気分を押し出しているようだった。
作品名:宇宙に虹、大地に黄昏 作家名:アスキー