宇宙に虹、大地に黄昏
小破したジャック機の方は、慣性運動によって少しずつ後退をかけていた。
弾幕を張って援護する中年男のコリンズは、ジャックのはりきりように、自らも心当たりがあるのだ。そんな若手を守ってやろうという心使いがある戦士である。
コリンズの懸命な迎撃行動によって、攻めあぐねたジェガンは、ただライフルを乱射するだけだった。
それをフォルティスは見た。隙だ。
しかし、ジェガンの1機がこちらの接近に感付き、機体の向きを変えた。
フォルティスはその動きに対応することができず、僅かに左上へ逸れていく結果となった。
そこまでを計算に入れることができないだけ、経験が浅いのである。加重を言い訳にすることなどできない。
奇襲が失敗したことにより、ビームライフルの放火を受けることになったが、機体を緩やかに、大きく旋回させることで、これを回避してみせた。小刻みな回避運動よりは得意な動きなのである。
その下では、リディアがフォルティスの危機を察知して、トライ・ブレードを飛ばして敵機の気を引いていた。
この援護のおかげで、フォルティスは機体の姿勢を立て直す猶予を得たのである。
「あの子に、あんな戦い方が出来るんだから!」
それは味方の援護というよりも、先輩の威厳である。
だからこそ自分を奮い立たせ、危険な仕事もするのである。
1機撃墜された流れもあってか、残りのジェガンが撤退行動を始めていた。
プレアデスにとって、ここで追撃する理由はない。ましてや、直前に撒かれたダミーバルーンに阻まれ、追跡することなど不可能になっていた。
ダミーバルーンはセンサーを乱すし、大抵は機雷が内蔵されているのだから、迂闊に接近できるものではない。
リディアは諦めを判断するとジャック機に接近し、接触回線を繋いだ。
「ジャック、大丈夫!?・・・あたし達が勝ったんだよ」
「ああ、爆発はしないと思う・・・リディアのおかげさ」
リディアは今すぐコクピットから飛び出して、ジャックを抱きしめてやりたかったが、ここは真空であり、戦場である。それが寒色の空の残酷さである。
作品名:宇宙に虹、大地に黄昏 作家名:アスキー