宇宙に虹、大地に黄昏
「それで、なんとなくだけど・・・あなたは、自分の実在の無さを埋めるために
パイロットをやっているんじゃない?」
何故そう思ったのか?と質問で返して誤魔化すのも一つの手だったが、この少女
には建前など通用しないという感覚が、警鐘を鳴らしていた。
彼女の直感的な洞察力は怖いぞ、というのである。
そんな気持ちが表現されて、ジュースは手渡しできず、ベッドの上に置かれるだけだった。
「自分の命を削って戦っている認識はあるみたいだけど、何がそんなに卑屈にさせてるの?」
「一度にきかないでくれ。自分にだってわからないのだから」
自分のドリンクも用意するべきだったと思い、隙を探した。
誤魔化しがきかないなら、せめて言葉を選ぶ時間が欲しかったからだ。
「ぼくは、人殺しを心で合法化したくないから、せめて対価を用意しているつもりなんだ。誰も不幸になんかしたくないんだよ」
「それが卑屈だって言ってるんだよ。命を粗略に使う言い訳をつくってさ・・・」
「否定はしない・・・」
戦場において人殺しは成立しない。だから、これは建前だ。
本音の方は、戦っている間は自分が生き長らえる理由を考えなくていいというのである。仮に死んでも悪くないという考えだ。
しかし、早死にしたいという考えは結局的に、自然に逆らい長く生きようとする人間らしい業と同質なのだ。
そんな形質とは縁を切りたいフォルティスにとって、これは悩みの種だった。
時間的存在であることに終止符を打ちたいだけで、死による救済などという独断的なものは求めていないからだ。
悄然としたフォルティスを惻隠《そくいん》してか、ルミナはジュースを口にし、一時《いっとき》の間を置いた。
作品名:宇宙に虹、大地に黄昏 作家名:アスキー