宇宙に虹、大地に黄昏
マカリアのメンテナンス区画 ―—― そこには人々の息遣いがあり、喧騒があり、生活があった。
その暮らしは40人ほどの若者によって営まれており、今は彼らレジスタンスの勝利を祝って歓声を巻き起こしているところであった。
無重力ブロックということで酒瓶やハンバーガーの包み紙などが宙を浮くなか、ひときわ上機嫌な男達が空間を泳いで、帰投したばかりの一人の青年へ向かっていった。
「前腕部の装甲はスペアがない。他の機体のを移植してもいいんだが、パージさせるか?」
「頼む。こっちは闇討ちがベターだからな」
「よう、エースさんよ!」
流れてきて、通り過ぎていく男たちが言った。
この乱暴で自分勝手な讃嘆を受けた青年は、人に担ぎあげられる気分というのを理解
したのであろう。
(こうやって、他人を囃し立てるのが一番気楽なんだよな)
こんな気を持って、嫌気が差していた。
結局、戦勝の宴の肴にされているだけと知っていたからだ。
しかし、久々に再生水や補水液以外の水分を摂取できるという状況にあっても
平然そのものな表情をする青年は、当たり前のようにこれら全てを受け流していったのである。
だから、メカニックマンに対してわざとらしく肩をすくめてみせるのが、彼にできる精一杯のリアクションだった。
「なんていうんだ?名前」
快哉をあげていた男の一人が青年の肩に手を置き、問いた。
「ぼくはフォルティス。フォルティス・マイア」
アタッチメントに固定され、コクピットハッチを全開にしたままの機体を見上げていた青年は、視線も移さずに言った。
その瞳に映る巨人は、彼に力を与えた。否応なしに。
それが、この時代の実状だった。
作品名:宇宙に虹、大地に黄昏 作家名:アスキー