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自分らしく
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彼方から 第三部 第八話 & 余談 第五話

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          ***

 ――何一つ、変わっていませんね
 ――あの頃と……何、一つ……

 客車の傍らに立ち、月光を弾く氷の障壁越しに、エイジュの体術を見やるクレアジータ。
 十年ほど前……
 襲い来る盗賊から救ってくれたあの頃と、何一つ変わらない姿、業、その『能力』。
 『いつも』変わらぬその麗しさに……クレアジータは見惚れ、同時に、『畏れ』をも感じていた。

 ――何度、訊ねようと思ったでしょうか
 ――……君は『何者』であるのか、と……

 くぐもった荒くれ共の苦悶の叫びが、障壁越しに絶えることなく聞こえて来る。
 あの頃と違うのは、彼女は今、剣を持っていないということだけ。
 『強さ』に一切の、変わりはない。
 ……いや、あの頃よりも『強さ』は増しているかもしれない。
 そう、思える。
 左手一本で軽々と、自身よりも倍以上はあろうかと思える男たちを投げ飛ばし、皆一撃で、その動きを封じてゆく。
 相手が武器を持っていようと、それで彼女が不利になることなど、ありはしない……

 襲撃者の数は、半分ほどに減っただろうか――
 華麗な舞を見ているかのようなエイジュの戦闘に眼を細めながら、クレアジータはまた、昔の出来事に想いを馳せていた。

          *************

「本当に――本当に有難うございました……」
 そう言って何度も何度も、頭を下げてくる使用人の女性。
 瞳に涙を浮かべ、今にも泣きそうな顔で、申し訳なさそうに何度も……

 ドロレフに謂れのない『仕置き』を受けていたこの女性を助け、成り行きで自宅まで送ったのだが――
 女性は己の身よりも、大臣の意に添わぬ行為をしてまで自分を助けてくれた、ローリの身の方を案じてくれていた。
 
 ――確かに、このままで済むと思うなよとは言われたが……

 ドロレフのことだ、本当にこのままでは済ますまい。
 だが、不思議と、それに対する恐れは感じていない。
 自身のした行為についても、後悔はしていなかった。

 この身を案じてくれる女性の気持ちは嬉しいが、いつまでもこうして頭を下げられ続けていても仕方がない。
 ローリは笑みを浮かべて首を振りながら、『気にすることはない』と一言言い置くと、馬に乗り、女性の自宅を後にした。

          ***

 半時ほど、経っただろうか……
 馬の様子が、少しおかしかった。
 耳を頻りに動かし、周囲の音を気にしている。
「何だ……?」
 その様子に釣られ、ローリも馬の背上から周囲を警戒し始めた。
 進んでくれてはいるが、落ち着きなく首を振っている。
 恐らく、人の耳には聞こえない『何か』の音を、聞き取っているに違いない。

 やがて……
 その『何か』の音が、ローリの耳にも聞こえ始めた。

 ――喧嘩か……?

 複数の人間の怒鳴り声が聞こえる……
 気のせいかもしれないが、叫び声のようなものも、聞こえた気がする。

 ――ここは、中心街からだいぶ離れているからな
 ――性質の悪い連中が屯っていても、おかしくはないとは思うが……
 ――盗賊……という可能性もある

 更に注意深く、馬上から辺りを見回す。
 一際大きな男の叫び声が、より、人家の無い方から聞こえて来る。
 宿への近道……と、そう思い、裏道へと回ったのだが、その『裏道』故――だろうか。

 ――やれやれ……
 ――今夜は警備の仕事の他に
 ――保安局員としての仕事も、努めねばならんようだ

 馬の鼻先を、叫び声が聞こえたと思しき方へ向ける。
 保安局員として……いや、それ以上に男として、もしも今、『誰か』が襲われているのだとしたら――
 助けを求め、請うているのだとしたら……
 このまま見過ごせば、必ず後で後悔するに決まっている。
 
 多少ではあるが、腕に覚えはある。
 ゴロツキや盗賊程度なら何とかなるだろう……その人数にも依るが。
 とりあえず、駆け付けて見ればよい。
 何事も無ければそれで良いのだ。
 『何事』かが起こっているのであれば、それが『大事』になる前に止めねばならない。
 裏道へ回ったことを『運が悪かった』と思うのではなく……
 それで誰かの助けになるのならば、その者にとっては『運が良かった』と――そうなれば良いのだ。
「はっ!」
 馬の腹を軽く蹴る。
 勢い良く駆け出した馬の手綱を握り、ローリは夜闇の街中を抜けて行った。

          ***

 大した時間は掛からなかった。
 人家も少なくなっている辺りだ、直ぐに開けた場所へと出た。
 怒鳴り声や叫び声が、良く、通る。
 月も清かに明るく、多数の人の姿も建物の輪郭も、疎らに生えた木々も、良く見える……

「おまえ達! 何をしているっ!!」
 馬を止め、地面に降り立つなり、ローリはそう怒鳴っていた。
 眼付きの悪い、ガタイの良い荒くれ共の視線が、一斉にこちらに向けられる。
 その数の多さに一瞬、怯みそうになるも、ローリは唇を引き結び、剣の柄を握ると、負けじと見据え返していた。
 
 不意の闖入者に、辺りは水を打ったように静まり返る。
 誰しもが戸惑い、動きを止めている中……
 ローリは状況を把握すべく、素早く、周囲に視線を巡らせていた。
 手前に、十名近い男が倒れている。
 意識は既にないのだろう――ピクリとも動かない。
 奥には、まだ馬が繋がれたままの、黒塗りの馬車が一台。
 その客車の傍に男性が一人……と、舞踏服を着た女性が一人。
 どちらも、今夜の舞踏会の招待客のはずだ。
 見た覚えがある。
 
 ――男の方は確か、『臣官長』と呼ばれていた

 『臣官長』と言う役職に就いている人物は、この中央ではたった一人。
 とても優秀で人格者であり、身分に関係なく言うべきことをハッキリと言う人だと――近頃ではそんな彼を支持する人々が、少しずつだか増えてきていると聞く。

 ――何かの研究をしていると、噂で聞いたことがあるが…… 

 だが、しかし……
 この地面に伏した男たちは、彼が……?
 『臣官長』が、倒したのだろうか……もしくは……もう一人の――?
 どちらにせよ、疑問が残る。
 二人とも、戦い慣れた人物のようには見えない。
 だが、そんなことを今、深く詮索している場合ではない。
 二人は未だ、剣を構えた十名ほどの荒くれた男たちに取り囲まれているのだ。

 ――『喧嘩』か?

 そうは見えない。

 ――さもなくば、『盗賊』か……

 だが、この男たちからは、そこまで『殺伐』とした雰囲気は感じられない。
 どこか、腑に落ちない現場だ。
 ローリは軽く身構えながらゆっくりと馬から離れ、集団から少し離れたところで一人佇む若い男に素早く視線を奔らせていた。 

 ――あの男は特別室で……

 『早く立ち去れ』と、そう言ってきた男。
 迎賓館内で、ドロレフ大臣と言葉を交わしているところも、何度か見掛けている……

 ――もしやこれは……
 ――ただの喧嘩でもなければ、盗賊に襲われているのでもなく……
 ――そう見せかけた『暗殺』……か?

 それならば納得がいく。
 標的は恐らく『臣官長』……その人だろう。