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自分らしく
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彼方から 第三部 第八話 & 余談 第五話

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「まだ、その金の量に見合うだけの仕事をしていないだろうっ! 早く、その警備の男を殺せっ!!」
 ライザはそう、怒鳴りつけていた。
 剣先の向けられた二人を……ローリとエイジュを見やる男たち。
 だが、その瞳に戦意が宿ることはなく、ただ互いに頷き合うだけ――
 やがて、一人の男が
「けっ……殺りたきゃ、一人で殺りな。おれ達は降りるぜ」
 そう吐き捨てた。
「なんだと……?」
 金で雇われただけとはいえ、その勝手な言い草に眉根を寄せる。
 向けた剣先が、怒りで小刻みに震えだす。
「あんたはおれ達よりも強ぇんだろ?」
「おれ達はまだ、死にたくねぇんだよ」
「ったく、この金の量でも、割に合わねぇ」
 だが、男たちはそんなライザを睨みつけ、次々と御託を並べ立てると、唾を吐き捨て舌打ちをしながら蜘蛛の子を散らすかのように、その場から走り去って行った。
 瞬く間に、小さくなってゆく足音。
 場が、静寂に包まれてゆく。

「さて……どうするつもり――なのかしら?」
 霧を纏う氷の剣を、一人残ったライザへと向けるエイジュ。
 本当に、ならず者たちが全員居なくなったことを確かめるように辺りを見回しながら、ローリもライザへと、剣を向けた。
「……黙れ」
 忌々し気に眉を顰め、そう吐き捨てると、ライザは静かに剣を背後に居るクレアジータへと向ける。
 剣先が、エイジュの張った氷のバリアと触れ、透き通るような音を発している。
「止せっ! その方は、クレアジータ様だぞ!」
 咄嗟にそう叫んだローリに、
「知っている」
 ライザは焦りの色が混じった笑みを向けながら、端的にそう返していた。
「知っている? では、やはり……」
 自身の予想が当たっていたことに、ローリは唇を噛み締めた。
 向けた剣先を、致し方の無いように地面に降ろしてゆく。
「殊勝なことだな……お前はどうする? ラクエール」
 ローリのその様を勝ち誇ったように見やりながら、未だ剣先を向けたままのエイジュに、ライザは態とらしくそう訊ねていた。
 肩から力を抜き、小さく吐いた息と共に剣先を降ろしてゆくエイジュ……
 ライザは、己の勝ちを意識した笑みを、口元に浮かべた。
 エイジュの左手から、氷の剣が消失してゆく。
 その左の手の平が、ゆっくりと上向いてゆく――

「どうぞ、構わなくてよ? あなたにそのバリアが、破れるものなら……ね」

 確信に満ちた言葉と微笑み……
 彼女の微塵の焦りも感じられない笑みに、ローリとライザは、思わず眼を見張っていた。

「――な、何を!」
 いきなり彼女の腕を掴み、ローリは咎め立てするかのように、エイジュを睨みつけた。
「構わないと……そう言ったのだけれど?」
 肩越しに、顔色一つ変えず、然も当たり前のように言葉を返してくる彼女に、
「は……?」
 驚き、呆れ、何も言葉が出て来ず、唇を半ば開いた状態のままもう一度……これ以上はないと言うほど、ローリは眼を見開いていた。
 確かに、馬車の周りには何か薄い、透明の幕のようなものが張り巡らされている……というのは分かる。
 分かるが、見るからに薄く、脆そうで……あのようなもので本当に、中に居るクレアジータを守り切れるとは、到底思えない。
「見縊られたものだな……」
 ライザも同じように思ったのだろう――
 『勝ち』を意識した笑みはそのままだが、僅かに眉根を寄せ、ムッとした表情を見せる。
 これ見よがしに、クレアジータに向けた剣に『気』を纏わせ、高々と振り上げると、
「その言葉、後悔するなよっ! ラクエールッ!!」
 叫ぶと同時に勢いよく、氷の障壁に振り下ろしていた。

       ガキィッーーーン……!

 まるで金属同士がぶつかり合ったような、甲高い音が辺りに響き渡る。
「クレアジータ様っ!!」
 耳を劈くような残響に顔を歪めながら、ローリは臣官長の身を案じ、その名を叫んでいた。

「私なら大丈夫です」

 急いで駆け寄ろうとするローリの耳朶を、柔らかな声音が掴む。
「……え?」
 その視界に入って来たのは、先刻と変わらぬ柔和な笑みを浮かべた、クレアジータの姿だった。

          ***

「くぅっ……」
 乾いた音を立て、剣が零れ落ちてゆく。
 小刻みに震える右腕を左の手で押さえながら、ライザが苦痛に、顔を歪めてゆく。
「もう、止めた方が良いでしょう……この氷のバリアは、見た目以上に堅いですから」
 小さな傷も、罅すらも入っていない氷の障壁の中から、クレアジータはそう、忠告していた。
 
 ――何故だ……どうして――っ!!

 かなりの『気』を、剣に籠めたはずだ。
 気の刃として飛ばせば、樹木の数本は軽く切り落とせる程度の、威力はあったはずなのだ。 
 己を見やるクレアジータの瞳が、憐みの色を含んでいるように思える。
 エイジュが何故、あの警備の男を助けに行ったのか――
 何故、『構わない』と言ったのか……合点がいく。
 納得してしまった自分に、腹が立つ。
「ふ、ふざけるなっ……たかが――たかが渡り戦士の……それも、女が張ったバリア如き……わたしに、破れぬわけはない――っ!!」
 ……認めたくなどなかった。
 己の『能力』が、同じ能力者とは言え、『女の渡り戦士』如きに劣る……などとは。
「く……くそがっ――!」
 ライザは憤りと悔しさに歯を軋ませ、今度は自身の拳に、『気』を集め始めていた。
「本気さえ出せば……このわたしに――!」
 右腕を思い切り振り被り、ライザはまるで仇でも見るかのように、氷の障壁を睨みつけている。
 その、彼の動きに慌てたのは、クレアジータの方だった。


 昔……
 エイジュの氷の障壁を素手で打ち破ろうとした盗賊たちの手が、どうなってしまったのか――
 ……あの痛々しく無惨な様が、鮮明に蘇ってくる。


「いけないっ! バリアに触れてはっ!!」
 後先など、考えていなかった。
 ライザの暴挙を止める為、思わず、自身の手をバリアに向けて伸ばしていた。

 ――しまった……!

 そう思ったのは、触れてしまった後だった。
「くっ……痛っ!」
 一瞬――ほんの一瞬だったはずだ、氷の障壁に触れたのは……
 急いで手を引いたが、それでも、両手に刺すような痛みが奔る。
 その痛みに、どうしても表情が歪む。
 エイジュが守る為に張ってくれた、氷の障壁に触れた両の手の平は赤く腫れ上がり、所々皮膚が剥がれ、そこから血が――滲み出していた。

          ***

「…………」
 クレアジータの言動に、ライザは立ち尽くしていた。
 ほんの少しの間しか触れていなかったにも拘らず、彼の両の手の平は真っ赤に腫れ上がり、その原因たる氷の障壁には、両手の指の皮膚が、ほんの少しだが、張り付いている。
 
 ――わたしの拳も、ああなっていたということか……
 ――いや
 ――きっと、もっと酷いことになっていただろう

 握った拳を見やる。
 綺麗なままの、右の拳を……

「クレアジータ!」
「エイジュ……済みません、触れてはいけないと、あれほど言われていたのですが……」
 痛みのせいか、蒼褪めた顔で膝を着くクレアジータ。
 その両手は、微かに震えている。