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DEFORMER 15 ―― Unchangeable 編

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 その士郎に理想がどうのと説いても、落ち込ませるだけではないか……。
「……アーチャー、それって、」
「い、いや! き、聞かなかったことにしてくれ! どうかしていた! 士郎、その、」
 慌てて取り繕おうと士郎に向き合えば、呆けたように私を見上げている。
「士郎?」
「アーチャーは、ずっと俺の傍に居たいって、こと?」
「へ? あ、っ……、ぅ、あ、ああ……」
「そっか! へへへ」
「…………」
 士郎は、うれしそうに笑っている……。
 これは、いったい……?
「よかった。俺だけじゃないんだ」
「そ……う……なの、か……?」
「ん? あれ? 俺、勘違いしてるか?」
「いや、していないが……」
「じゃあ、なんでそんな、不可解そうな顔してるんだ?」
「不可解ではないのだが……。あ、いや、不可解といえば不可解なのかもしれない」
 ぶつぶつと呟けば、士郎は変な奴だと私を笑った。
「アーチャー、一緒にさ、」
 ひとしきり笑っていた士郎は急に真面目な顔になる。
「いろんなこと考えて、答えを探していこうな!」
「ああ。よろしく頼む」
「こちらこそ」
 屈託ない笑みを浮かべて答えた士郎をそっと抱き寄せれば、どうしようもなく士郎が欲しくなる。
「アーチャー、キス……したい」
 私の胸に顔を埋めたまま、士郎はくぐもった声でそんな欲望を聞かせる。
(士郎も同じ気持ちだと思うのは、少々都合がよすぎるだろうか?)
 なんにしてもうれしい。
「ああ。私もだ」
 こく、と私の胸に額を擦り付けて頷く仕草が愛おしい。顔は見えないが、かろうじて見える耳が赤いことがわかる。
(顔は真っ赤になっているはず……)
 キスをねだるだけで、こんなにも恥じらっている士郎がたまらない。
 顔だけではなく身体も、風呂上がりであることを加味しても熱すぎる気がする。それに、鼓動も速い。おそらく全身を真っ赤にして、私にキスをねだっている。その事実がうれしすぎる。
「士郎、顔を上げてくれなければ、できない」
 恥ずかしさで消え入りたいであろう士郎に無情のセリフを吐けば、おずおずと顔を上げて、私と視線がぶつかった。
 そっと両手で士郎の頬を包めば、士郎は私の手に手を重ねてくる。
 見つめる先には琥珀色の瞳があり、吸い込まれたい、などと馬鹿なことを思いながら、近づく吐息に鼓動が跳ねる。
「アーチャー……」
 微かに触れた唇の熱さに驚き、まるで火傷したかのように少し顔を引けば、士郎が追ってくる。
 日々欠かしたことなどないというのに、まるで久方ぶりにする口づけのようで、なぜか緊張していたようだ。士郎がガスコンロのスイッチを切った音で、鍋の火を止めていなかったことにもようやく気づいている。
(本当に今日は、どうかしている……)
 私の余裕の無さを揶揄することもなく、士郎は触れるだけの優しいキスを繰り返すだけだった。



 温かい手が髪に触れたままだ。
 いつも冷たい指先が、今は心地好いくらいに温かく、私は士郎の胸に抱かれたままぼんやりと月明かりを感じている。
 士郎は少し前に眠りについた。私を宥め、髪を梳き、背をさすっていた士郎の手は、今、私の頭を抱き込んでいる。
「士郎……」
 人でなくていいのだと、士郎は言った。
 人であれば、私とは出会えなかったと、士郎は……。
 確かにそうだ。
 私は士郎と元を同じにする存在。よしんば人のまま私が過去に戻ることができたところで、士郎と出会うことは避けたはずだ。英霊として存在していたから、抹殺という理由はともあれ、士郎と出会うことができたのだ。
 不思議な運命だと思う。いいか悪いかは別として……。
 いや、悪いことなどないか。私には士郎とともにいられることが最上なのだから。
 頭を仰け反ってみると、間近に士郎の寝顔がある。閉じられた瞼の奥は見えない。
 いつも、琥珀色の瞳は一心に私を見つめていた。今夜のことも、嘘や方便ではなく、あれが士郎の本心であることは容易にわかる。
 不謹慎かもしれないが、英霊になってくれていてよかった、と士郎は少し申し訳なさそうに笑っていた。
 アレックスの言葉は、あのとき確かに私の胸に突き刺さった。私を“人間ではない”と暗に言い放った奴の本心はわからないが、私が現界していることを面白くないと思っていたのだと推測される。
 士郎にそのことを言えば、だったらどうだというのか、とあっさりした反応だった。その上、そんなことは関係がない、アレックスに自分たちの何がわかるのかと、士郎は憤慨していた。何も知らないクセに、勝手なことを言う奴のことなんか放っておけと、誰が何を言おうと、俺にはアーチャーが必要なんだ、と……。
 何者かと戦うためではなく、生きるために傍にいてくれなくては困るのだと、士郎は惜しげもなく言いきった。
(ゲンキンなものだな、私は……)
 言葉一つで何かが変わるなど全く信じていなかったが、胸の痞えが、す、と下りたのは事実。
 思い悩むことが解決したわけでもなく、私は英霊のまま、人ではない。それでも、私は士郎とともに在りたい。そして、士郎も私とともにいたいと言ってくれる。
「ああ、そうか。私は、お前に求められているだけで、よかったのか……」
 誰かの考えや意見ではなく、私がどうしたいか、士郎がどうしたいか、それが肝心なのだと、ようやく理解した。
「士郎……」
 顔を埋めた胸元に擦り寄れば、
「ん、アーチャー?」
 眠っていたはずの士郎が答える。
「すまない、起こしたか?」
「ん、へいき……」
 月明かりの下、琥珀色の瞳は、半分下りた瞼の奥で美しく光っている。
(ああ、愛おしい……)
 この存在が何よりも。
 この瞬間がいつよりも。
「士郎、愛している」
 そっと頬を撫でた士郎の温かい手が、髪を撫で、眠そうな顔が近づいてくる。
「アーチャー……」
 キスをされたのだと気づいたときには、もう唇は離れ、少し照れた顔が間近で微笑(わら)っている。
「俺も、愛してるよ」
 誰にも文句なんか言わせないからと呟いた、士郎の瞳の奥に見えた炎のような揺らめきが少し引っかかったが、このときの私には、何も気づくことができなかった。



「おはよう、アーチャー」
 目を擦りながら挨拶をこぼし、士郎は私の頬に手を触れる。
「まだ眠いだろう。もう少し寝ていればいい。朝食は私が、」
「起きるよ」
 身体を起こした士郎につられ、私も起き上がる。
「一緒に作ろう」
「……ああ」
 穏やかに微笑む士郎に、私はうまく笑えなかった。
「士郎、昨夜のことは、」
「いいぞ。いつでも甘えてきて」
「っ……」
 両手を広げ、さあ、どうぞ、と私を待ち構える士郎に呆気に取られたあと、やっと笑うことができた。
「お言葉に甘えたいところだが、朝食を準備しなければならないからな」
「そうだな、残念」
「ああ、残念だ」
「ほんとにそう思ってるか?」
 揶揄するように訊く士郎に、本当だ、と答えると、ふにゃり、と相好を崩して士郎は私に抱き着いてきた。
「お、おい?」
「いいだろー、ちょっとくらいー」
 もちろんかまわないが、後にやらなければならないことがある場合、時間制限がある。こういうことをするのならば、際限なくできるときにしてほしい。