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DEFORMER 15 ―― Unchangeable 編

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(まあ、士郎には、理解できない心情だろうがな……)
 私がどれほど士郎を欲しているのかなど、予想だにしていないだろう。四六時中こうしていたいと思っていることなど、きっと気づきもしていない……。
「そら、もう動き出さなければ、虎のご機嫌取りをすることになるぞ」
「むー……。はぁーい……」
 どうにか聞き分けた士郎は名残惜しそうに私から手を離す。
 正直なところ、布団に逆戻りしたいが、理性を強引に引っ張り出してきて、布団を上げ、居間へと向かう。途中で足を止めた士郎は、何かを思い出したようだ。
「士郎?」
「顔、洗ってくるよ。ついでに洗濯機も回してくる」
「ああ、頼む」
 思い出したのは常日頃の家事のようだ。そう言った士郎とは居間の前で別れ、私は台所に入る。
 いつもと同じ朝が来た。士郎とともに迎える、穏やかな朝だ。
「昨日、あれほど悩んだというのに……、我ながら、単純なものだな」
 士郎の言葉が私の懊悩を掻き消した。言葉になどなんの力もないと思っていたが、違っていた。
 そういえば、エミヤシロウを正義の味方にしたのは、養父の言葉だったな……。
 士郎が言った通り、私がサーヴァントでなければ、我々は出会えなかった。そんな簡単な答えすら私は見失っていたのだと気づかされた。
 確かに我々は人とサーヴァントだ。普通の人間の生活というものとはかけ離れている。だが、士郎はそのことに拘ってはいなかった。私が傍にいればいいのだと、本当にそれだけだったのだ。
(うれしい限りだ……)
 昨日の己が馬鹿に思えてくるほど、今朝は清々しい気分だった。



***

 ホームルームが終わる前から彼女はソワソワしている。帰る準備もとっくに終わらせて、終了のチャイムが鳴るのを今か今かと待っている。
(デートか? いや、もしかすると、一緒に帰る、とか?)
 昨日、アーチャーはあいつに会った口ぶりだった。校門で俺を待っている間にあいつと顔を合わせたんなら、もしかすると、今日も……。
 さっさと帰り支度を整える。掃除当番は誰かに代わってもらおう。何度か代わりを頼まれたクラスメイトがいるから――――、
「衛宮」
 こそり、とかけられた声にはっとする。
「え?」
「今日、なんかあるのか?」
「え……っと、う、ん、まあ」
 声をかけてきたのは熊取だ。なんの因果か、今は隣合わせの席だった。
「掃除、代わってやるよ」
 渡りに船、とはこのことなんだろうか。俺がさっさと荷物をまとめているのが珍しかったのか、熊取は気を利かせてくれたらしい。
「悪い、今度代わるよ」
「いいって。お前、誰彼かまわず代わってやってるだろ? 一回くらい代わりをやったからって済む話じゃねーけど、おれの善意に甘えておけばいいって」
「でも、代わったの、熊取じゃないし……」
「細けーこと言うなって!」
 熊取は人好きのする笑みを浮かべて、任せておけと胸を張っている。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
 今回だけは、素直に熊取の善意をいただくことにした。
 熊取とは、文化祭が終わった直後こそギクシャクしていたけど、そんなのもすぐになくなっていた。今となっては熊取と教室の席は隣で、普通に話もできている。
 熊取が気を遣ってくれているのかもしれないけど、俺たちは普通のクラスメイトという関係に落ち着いた。
 軽口を言い合うこともあって、お前と話してると男友達と話してるみたいだ、なんて熊取に言われたときは、苦笑いしか浮かばなかったんだけども……。
(掃除のことは気にしなくてよくなったから、あとは、田坂さんを……)
 心配事はなくなったし、あとは彼女を見失わないようについていくだけだ。彼女の下校スピードは、ものすごく速いときがある。ほんとに、あっという間に教室を出ていくんだ。たぶん、今日もそうだと思う。
(ってことは、今日もあいつが来る)
 妙な確信だか予感があって、俺の第一の使命は田坂さんについて教室を出ることに決まった。



 ホームルームが終わって、熊取に掃除の礼を言い、すぐに教室を出ていく田坂さんのあとに続く。さいわい彼女は、後ろに続く俺に全く気づいていない。たぶん、彼女の頭の中は彼氏のことでいっぱいなんだろう。
(田坂さんの気持ちは本物だ……)
 何かの意図があってあいつとつきあっているわけじゃない。それだけはわかる。俺も彼女と同じに大好きな人がいるから。
 ふと、自分が何をしようとしているのか、ということに思い至る。
(俺……)
 みんなに頼んだのに、田坂さんを気遣ってみんなを止めた俺が、自分であいつの本性を暴こうとしている。
(矛盾してる……)
 田坂さんたちには、普通の恋人同士であってほしいと願っていた。きっとそうだと信じていたかった。なのに、それを俺自身がダメにしようとしているなんて、めちゃくちゃだ。
「…………」
 少し頭が冷えてくる。今日の自分の半日を振り返る余裕が出てきた。
 昨夜から怒りが消えない。それで、今朝からずっと俺はピリピリしていたから、セイバーに怪訝な顔をされてしまったんだった。勘のいいセイバーには、何かあったのかと訊かれたけど、曖昧に濁した。心配してくれるセイバーの心遣いをフイにするのは、ほんとに心苦しかったけど……。
(やっぱり、やめた方が――)
『やあ』
 びく、とその声に身体が跳ねた。もう校門まで着いていたことに少し驚いてしまう。
「衛宮さん、どうしたの? 今日、早いね?」
 田坂さんが少し首を傾げて俺に訊いているけど、それに答えることなく、大きく一歩を踏み出す。
 そいつの顔を見た途端、俺は我を忘れたらしい。
 片手を上げて、にこりと笑んだその顔にツカツカと歩み寄って、何も言わずに拳を叩き込んだ。
「きゃあっ!」
 すぐ側にいた田坂さんの悲鳴が聞こえたけど、かまう暇はない。そいつは頬を殴られても顔を背ける程度で、俺の拳がたいして効いていない。
 ただただ苛立つ。なんのダメージも与えられないことに。
 田坂さんへの配慮とか、何もかも忘れてしまっている。
『昨日、アーチャーに、何を言ったんだ』
 低く問えば、
『ハッ! ご挨拶だなぁ』
「っ……」
 にぃ、と吊り上がった唇に寒気を覚えた。
(身体が……あのときのこと、思い出してる……)
 押し倒された床の冷たさ、衣服を剥がれる心許なさ。あのミュージアムでのことが嫌でも身体を震わせる。だけど、怯えている場合じゃない。
『アーチャーって、ああ、あのサーヴァント。お前の恋人だとかいう? 何を目くじら立てているのかと思えば……』
 何がおかしいんだろう?
 肩を揺らして笑うそいつに、何を言ったのかと再度問い質した。
『何って、身の程を知れって言ってやったんだよ。サーヴァントのクセに出しゃばるな、ってな』
『な……んだと!』
 言い終わらないうちに、拳を振りかぶる。
『おっと!』
 二発目をお見舞いしようとしたのに、今度は、すい、と避けられて、
「ぁぐっ!」
 膝蹴りを、もろに腹に喰らった。くの字に倒れこみそうな俺の腕を掴んだアレックスは、強引に身体を戻させる。
「ぐ、ぅ……」
 息が整わなくて苦しい上、痛みで身体が強張った。
『おとなしくしていればいいのに。“あのとき”みたいに』