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DEFORMER 15 ―― Unchangeable 編

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 こんなやり取りができるようになった。俺は自分の体つきをどうこうと悲観することはない。それからアーチャーも、俺が他の誰かに見向きもしないと、ようやく理解したみたいだ。
「明日、何時だっけ?」
「七時に現地だ」
「じゃあ、もう寝ないと。アーチャー、手ぇ離してくれ」
 俺の貧相なバストを弄ぶアーチャーにきっぱり言えば、
「もう少し」
 なんて返してくる。
「……あと一回の間違いだろ?」
 呆れながら言い直してやれば、そうだなってアーチャーは耳たぶを唇で食んでくる。
 アーチャーだけじゃなくて、俺もほとぼりが冷めていないのは、きっとバレているんだろうけど……。
 振り返ればキスをくれる。明日の仕事も頭の隅にはあるけれど、やっぱり俺もやめられない。
 アーチャーと抱き合うことが何よりも好きなんだ。
 あのミュージアムからはじまって、何度求め合っただろう。今も褪せることのないアーチャーへの想いは、ずっと変わらない。
「アーチャー」
「ん?」
 俺の胸に顔を埋めていたアーチャーが少し頭を上げた。
「大好きだよ」
 二回ほど瞬いて、
「ああ、私もだ」
 目尻を下げて微笑むアーチャーは、とても幸せそうに見える。
 せつないと思った笑みはナリを潜め、今、俺とともに過ごすアーチャーは、思わずもらい笑いするくらい幸福な笑みをくれる。
 キスをして、深く繋がって、俺たちは求め合うことをやめられない。
(たぶん、不安なんだろう……)
 行き着く先のことを考えると、あんまりいいものは見えない。だから、俺たちは現在(いま)を嫌というほど一緒に過ごす。
 棚上げにしているわけじゃないし、もちろん、忘れたわけじゃない。アーチャーはサーヴァントで、俺は人間。俺は死を迎え、アーチャーは座に還る。その定義は変わらないんだ。
 そうして俺たちは、エミヤシロウであることに苛まれ、現在(いま)の自分自身が許せなくなる。だから、俺たちはお互いを許し合うんだ、“お前だけの味方だぞ”って……。
 俺はアーチャーを、アーチャーは俺を、大丈夫だって、お前だけは見捨てないって、ずっと傍にいるからって、許してあげるんだ。
(ほんとにエミヤシロウって厄介な奴だ。自分では自分を許せないんだからな……)
 でも、これでよかったと思う。これで俺たちは離れられない。俺にとっては願ったり叶ったりだ。アーチャーは少し違うかもしれないけれど……。
「士郎……」
 欲にまみれた熱い吐息が俺を呼ぶ。
「オレの、……士郎」
 どくん、と心臓が跳ねた。
「フ……、締まったな」
「も、あ、アーチャーが、へ、変なこと、言う、からっ」
「変とは? 何が変だった?」
「ぅ……」
 こいつ、言わせようとしてるな……。
「な、なんでも、ない!」
 熱くなる顔を背けて、アーチャーの視線から逃げたくなる。まあ、組み敷かれているし、繋がっているから逃げられはしないんだけどさ。
 時々アーチャーは俺が困り果てるようなことを言うから、ほんっと勘弁してほしい。抱き合うだけでもいっぱいいっぱいなのに、俺が恥ずかしくなることを平気で口にするもんだから厄介だ。
「アーチャーも、俺のなんだからな!」
 仕返しみたいに言えば、アーチャーはおかしそうにクツクツと喉で笑っている。
(楽しそう……)
 何よりだと思う。
 きっとこんな些細なことなんて記録に残りもしないだろうけど、今、アーチャーは笑っているから。それから、俺もアーチャーにつられて笑いだして、一緒に笑い合っていられるから……。
 愛しい身体を抱きしめて、幸福感に満たされて、俺たちは互いを求め合って、無限ではない時間を過ごしていくんだ。



「明日、六時半に家を出ればいいかな」
 あくび交じりに訊けば、
「あと五分は遅くてもいい」
 アーチャーが俺を抱き上げて部屋へ向かう。
 抱き合った後に風呂に入れてもらったのは、もう諦めがついたからいいとして、歩けないわけじゃないのに、なぜかアーチャーは俺を横抱きにして運んでいる。
(まあ、いつものことだし……)
 以前はほんとに立てなかったから仕方がなかった。でも今は、それなりに慣れたし、体力も意識して増やしてきたし、アーチャーが配慮してくれるっていうこともあって、風呂場から自分の部屋に行くくらい、どうってことはない。
 だけど、アーチャーは以前と変わらず俺を横抱きにして部屋へと運ぶ。
「明日は大型犬だが、大丈夫か?」
 しかも翌日の体調まで窺ってくる始末だ。
「平気だって。今も歩けるのに……」
「……そうか」
 不満を込めて言う俺に納得したように頷くものの、下ろしてはくれないらしい。
「大型犬の散歩って言っても、あそこの犬はおとなしいだろ」
「ああ、そうだな」
「だから、平気だよ」
 犬を飼い始めたわけじゃない。なのになぜ犬の散歩の話になるのかというと、仕事だからだ。
 三年前、俺の高校卒業と同時に遠坂とセイバーは穂群原学園の講師を辞め、自宅で私設探偵事務所なんてものをはじめた。ただ、探偵事務所なんて肩書きだけで、人探しから迷い犬や猫、果てはペットの散歩や家の片づけまで請け負う、所謂“なんでも屋”的なもの。
 しかも、広く門戸を広げていて、魔術師からも一般人からも憚らず依頼を受け、須らく困っている人を助けるという、特異な職業になっている。
 創設者の遠坂はもちろん所長で、彼女に雇われた俺とアーチャーは、日々こき使われているというわけだ。開所当初、アーチャーが穂群原学園の学食を後任者に引継ぎ終えるまで兼業だったから、すごく大変だったけど……。
 でもま、俺には……、いや、俺たちにはもってこいの仕事だし、文句はない。
 事務所開設とともに衛宮邸での居候を解消した遠坂とセイバーは遠坂邸へ戻り、俺たちはといえば、現場直行と事務所出勤(主な仕事のない日)を併用しながら、毎日忙しくしている。
 はじめこそ事務所に出勤することが多く、遠坂の執事みたいなことをやらされていた俺たちだけど、軌道に乗ってからというもの、そんな余裕のある日は月に一度あるかないか、だ。
 遠坂は、アーチャーを事務所に残しておいて、私の世話をさせるのよ! なんて我が儘を言っていたけれど、アーチャーは仕事をする上で大事な戦力。遠坂の執事なんて、そんなの後回しになるに決まっているじゃないか。
 いくら所長だからって、我が儘が通ると思ったら大間違いなんだぞ。
 まあ、そんなこと、はっきり言えば一日中ガンドで狙われるから、言わないけれど……。
 そんなこんなで俺たちは、二人でいる時間を最期まで満喫していられそうだと、漠然とした未来図を描けるようになっている。
 アーチャーとは恙なく、とでもいえばいいのだろうか、問題なくやっている。それでも、いまだに俺が無防備だと怒ることがあるなぁ。
 大人になったのだから、とか、よくわからないことを言って説教をされることが、たまにあるけれど、いたって順調だ。
 それに、セックスをすることにも余裕がでてきたから、アーチャーを悦ばせることも、少しずつだけどできるようになってきた。