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サヨナラのウラガワ 2

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 どんなに望んでも、私の望みなど叶うはずもないのだから。



 補給剤を口にした日、室内の清掃をできる限りやり遂げる。夜十時を過ぎて駅前に行き、女性を連れ帰る。
 次の日の早朝、女性が意識を取り戻し、身支度を整えて出ていくのをダイニングの壁にもたれたままやり過ごす。夜十時を過ぎて駅前に行き、女性を連れ帰る。
 その次の日の早朝、女性が意識を取り戻し、身支度を整えて出ていくのをダイニングの壁にもたれたままやり過ごす。夜十時を過ぎて駅前に行き、女性を連れ帰る。
 そのまた次の日の早朝、女性が意識を取り戻し、身支度を整えて出ていくのをダイニングの壁にもたれたままやり過ごす。少しあとに士郎の気配を感じ取り、玄関へとにじり寄る。補給剤を口にして、また同じことを繰り返す。
 今の私のルーティンだ。他に動くことはない。日がな一日窓辺で過ごしているが、これだけでも日に日に魔力が足りなくなってきている。
 もう、現界は難しいかもしれない。
 士郎に何も言えないままで座に還れば、いつアレは気づくだろうか……。
 ああ、補給剤が郵便受けに入ったままだと気づけば、遅くとも一週間と経たずにわかるだろう。そのくらいならば、無駄にここの家賃を払うこともないか。
 壁に頭を預ければ、窓から見える空が暗くなりはじめていることに気づく。
 駅前まで行くのが面倒になってきた。
 だが、行かなければ……魔力が…………。
 ふ、と意識が途絶えた。



 今日は、なんにちだ……?
 補きゅうざいを、いつ、口にした?
 ふらついて、立ったとおもえば、すわりこんでしまう……。
 しろうは、いつ来る?
 いや、きのう、きたのだったか。
 ああ、違う。
 おととい、だったか?
 もう、よく、わからない。
 どのくらいここにいるのか。
 どれほど、士ろうにあえないで、いるのか。
 ああ、士郎の、けはいが、する。
 ゆう便うけに補給ざいが、はいった音がする。
 立つよりも、這うほうが、はやい。
 視界が、くらい。
 おかしい。
 もう、日はのぼっている、はずだというのに。
 げん関のゆうびん受けだけが、鮮やかに彩られてみえるのは、いったい……?
 ああ、そうか。
 し郎のまりょくが、ある、からだ……。
 そこに、ま力が。
 士郎の……。
 ゆうびんうけから紙袋を取り出す。
 かみ袋があけられず、やぶりすてる。
 ラップもうまくとれず、ほきゅうざいがくずれてしまう。
 床におちたかけらを余さず啜り、どうにかまだ、げんかいできている。
 けれど……。
 足りない、たりない、たりないっ!
 扉にてをのばし、かぎを開ける。
 し郎……。
 にぎりしめたかぎから手をはなして、げん関をはなれる。
 ゆかに寝転んだ。
 もう動くのが、おっくうだ。



 どうしていまごろ こんなねがいが かなうのか
 わたしは ずっとねがっていたのだ
 はやく ふようなものになりたいと
 しゅごしゃというものは もうこりごりだから
 はやく ふようのものに
 なのに ひにくなものだ
 ふようだとおもわれることが なによりこわくなってから
 ふようだといってすてられる
 じごうじとくということだろうか
 しゅごしゃとして もんくをいわずにはたらけということだろうか
『アーチャー!』
 ああ こえがする
 わたしの のぞむものとは ちがうこえが
『アーチャー、しっかりして!』
 ああ なぜきみは あのとき わたしをたすけたのだ
 あのまましんでいれば きっとこんなおもいはせずにすんだ
 きみは ほんとうにおせっかいで
 むこうみずなところが たまにきずで
 そして なんて あたたかいのだろう
 すまない
 わたしはもう いらないのだそうだ
 だからもう きみのおせっかいには あずかれそうにはない



Back Side 7

「セイバーも行ったこと、ないわよね?」
「はい。話だけでしか知りません。ちょうどロンドンに行くころでしたので、時間がありませんでした」
「そうねー」
 忙しかったものね、と凛は車窓からセイバーへと顔を向けて頷く。
「それにしても、衛宮くんってば、案外、大胆なところがあるのねぇ」
「凛、本当にシロウは、その、アーチャーとは?」
「うん。やっぱり気の迷いだったみたいよー。アーチャーもその辺のことはわかってたみたいだし、楽しく一人暮らしを満喫してるんじゃない?」
 セイバーの疑問を察し、凛は朗らかに説明する。
「……そう……なのでしょうか…………?」
「え? なに? セイバー、何か聞いてるの?」
「いえ。何も聞いてはいませんが……、シロウが本当に気の迷いでアーチャーのことを好きになったのか、と疑問で……」
「そりゃあ、そうでしょ。だって、衛宮くんよ? どこをどうやっても、あんなに短い間に誰かを好きになるとか、しかも、アーチャーをよ? ないない、ないわよー」
 凛は笑い飛ばしているが、セイバーは、まだ疑念が拭い去れない様子だ。
「でもま、会えばわかるでしょ。恋人という関係ではなくても供給するために士郎はアーチャーに会う必要があるんだし、そりゃあ、後ろめたさとかはあると思うけど、あの二人、恋人になる前から直接供給をしていたんだから、以前に戻っただけだって、割り切るわよ、きっと。士郎はなんだかんだ言ってもアーチャーを還したくはないみたいだし、供給は続行。もしかすると、兄弟みたいに仲良くなってるかもしれないわね」
「それは……」
 ないだろう、とセイバーは苦笑いを浮かべた。
「そうね。私もそう思う」
 凛も自分で言ったものの、困ったような笑顔を見せた。
「あの二人は、どこまでいっても、エミヤシロウなんだわ……」
 少しだけアーチャーの記憶を思い出して、凛は目を伏せる。
「そうですね。彼らは、相反していたとしても、切っても切れない間柄なのでしょう」
 セイバーも二人の一騎打ちを思い出し、エミヤシロウという存在の歪さにやるせなさを感じる。
「やぁねー。あいつらのこと考えると、暗くなっちゃった」
 肩を竦め、もうやめましょ、と凛はセイバーに提案した。
 士郎とアーチャーの話を切り上げ、他愛ない話をしていれば、目的のマンションが見えてくる。ロンドンから日本に戻ってきた凛は、衛宮邸へサプライズ訪問をしようと目論み、空港からタクシーに乗ってアーチャーのマンションに向かっている。
 アーチャーの協力を得て士郎を不在にさせ、その隙に凛とセイバーが衛宮邸にスタンバイするという計画なのだ。そうすれば、別居中のアーチャーも否応なく巻き込むことができる。呼んだところで素直に応じない可能性が高いアーチャーを、無理にでも衛宮邸に来させることがこの計画には必要だった。
 何しろ、ひと月近く日本を離れていたため、凛にとってアーチャーの作る和食が恋しかったのが最大の理由。アーチャーがいなくては話にならないのだ。
 ロンドンを出るころから、凛がウキウキしていたのを思い出し、セイバーは、くすり、と笑う。
「凛、アーチャーの食事が待ち遠しいですね」
「え? ぁう、そ、そうねー。ハハハハハ」
 笑って誤魔化した凛に、笑みを深くしたセイバーは、
「何を作ってくれるのかが楽しみです」
作品名:サヨナラのウラガワ 2 作家名:さやけ