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サヨナラのウラガワ 2

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 と、鼻息荒く期待に胸を膨らませた。

 アーチャーの住まう部屋の前に立ったものの、インターホンへの応答がない。
 部屋を間違えたのかと思い、凛は、士郎から聞いていた住所を記した手帳を広げて確認する。
「ここ、よねぇ……?」
 住所はもちろん、マンション名も部屋番号も合っている。もう一度インターホンを押し、
「留守かしら?」
「いえ、アーチャーの気配はあります。ですが……」
「なに? 何かあるの? って、ちょ、セイバー?」
 凛を下がらせたセイバーがレバー式の取っ手を握って扉を引けば、難なく開く。
「え……?」
 セイバーと顔を見合わせた凛は眉をしかめた。
「鍵が、開いてる……って、ちょっと……、おかしいわよね?」
「ええ。アーチャーの気配はあるのですが、動きがないというか、」
 凛を振り向きながら扉を全開にしたセイバーの向こうに見えた光景に、凛は目を剥いた。
「アーチャーっ!」
 玄関を入ればすぐに広がるダイニングキッチンの床に、どう見ても倒れ込んだような格好で横たわっているアーチャーに色を失う。
「アーチャー、しっかりして!」
 駆け寄って頬を軽く叩けば、僅かに白い睫毛が震えた。
「アーチャー? いったいどうしたっていうのよ? 何が、」
「凛、アーチャーの魔力が、」
「え?」
 セイバーは周囲を警戒しながら臨戦態勢に入っている。
「魔力? 魔力って……、魔力切れってことっ?」
 セイバーに向かって問えば、大きく頷くかれ、凛は青くなった。
「ど、どうしてよ!」
 セイバーに怒鳴ったのではなく、そうなる意味がわからず凛は声を荒げている。
「わかりませんが……、あたりに賊の気配はありません。何が起こったかは、アーチャーに訊かなければ判明しないと思います。とにかくアーチャーは極端に魔力を失っているようです」
「あの、馬鹿士郎! 何やってんのよ!」
 凛は主である士郎に怒りながら、ゴソゴソとポケットをあさり、指先に当たった物を取り出した。
「アーチャー、これ飲んで」
 取り出した物をアーチャーの口元に押し付ける。それは、凛の魔力を籠めた指先ほどの小さな宝石だ。小さすぎるために、あまり役に立たないと思っていたため、ポケットに入れっぱなしだったものだ。
「アーチャー、口を開けて! 飲みにくいだろうけど、飲んで!」
 凛の必死な声に、アーチャーは薄く瞼を上げているだけの状態だ。飲み込めるのかどうか凛にはわからない。だが、かさついた唇が僅かに開く。朦朧としているアーチャーでもその言葉と、その宝石に込められた魔力は理解できたのだろう、素直に従って宝石を飲み込んでくれた。
 喉の動きを確かめ、飲み込めたことにほっとしたのも束の間、そのまま反応のなくなったアーチャーを凛は青くなって揺するのだが、セイバーに眠りに落ちただけで大丈夫だと宥められる。
「おそらく気が抜けた、というところでしょう。もしかすると長い時間、こういう状態だったのかもしれません。私たちがロンドンに行く前のアーチャーは、全体的に魔力量は足りていないようでしたが、現界にはもちろん、日常生活にも支障のないくらいには満たされていました。ですが、たったひと月余りでこれほど状態が悪くなるというのは……」
「戦闘みたいなことがあったってこと? だけど、そんな報告なんて、受けていないわよ?」
「だとしたら、魔力供給がうまくいっていないか、もしくは供給自体が滞っている。そして、その状態が続いている、ということだと思います」
「長い、時間って……? 供給が滞るって? どういうこと……?」
「凛、シロウは、以前と同じ方法で魔力供給を行っているのですね?」
「そりゃあ、そうでしょ。直接供給と経口摂取じゃないと衛宮くんの力量では難しいもの。あ、それから、たぶん、補給剤を追加しているはずよ」
「補給剤?」
「ええ。予備的なものとしての用途になるんだけど。衛宮くんの家から出て過ごすとなると、近くにいるってだけで賄える魔力がないから、その補給のためにと思って、作り方が載った本を貸したの」
「補給剤……。それをシロウが作って、アーチャーに渡しているということですね。だというのに、アーチャーは魔力を補えていない……」
「いくら恋人はやめたと言っても、衛宮くんが魔力供給をやめるわけがないし……。うまくできなくなったのかしら? 初めから成功していたからって、ずっとそうとは限らないわよね。何しろ、あのやり方って、双方ともに協力しなきゃできないことだし……。急にうまくいかなくなったのかもしれないわね……」
 思案をはじめた凛とセイバーだったが、すぐに凛は頭を振って気を取り直した。
「原因究明はあとね。とりあえず、緊急性はなくなったのかしら?」
「はい。すぐに供給ができれば問題はないかと」
「すぐに供給……」
 ぽつりと呟いた凛は、ぱっと俯いていた顔をセイバーに向ける。
「セイバー、アーチャーをベッドに運びましょ。いくらなんでもここじゃ身体が痛いだろうから」
 頷くセイバーとともに意識のないアーチャーを隣の洋間へ運び込み、ベッドに横たわらせると、凛は肩にかかった黒髪を払って毅然と告げる。
「セイバーはアーチャーの側にいて、少し魔力を融通してもらえるかしら」
「はい。それは、かまいませんが……。私よりも、凛の方が適任なのでは?」
「私は、ちょっと、あの馬鹿を呼びに行かなくちゃならないから。師匠として、ね」
「り、凛、シロウが供給に失敗しているとすれば、それは、」
「セイバー、庇うのはなしよ? 私はあいつにアーチャーのことを頼んだのよ? なのに、この状態。あんの馬鹿士郎、一度痛い目見せなきゃわかんないんだから!」
「あ……、その……、は、はい」
 セイバーには、凛を止めることができなかった。



「セイ、バー……か?」
 重そうな瞼が開いて、鈍色の瞳がセイバーに向けられる。
「アーチャー、気がつきましたか? 動かないでください。貴方は今、危険なほどに魔力を失っています」
「ああ、わかっている……。指すら、うまく動かせない……ので、な……」
 言いながらため息をつくアーチャーに、セイバーは少し眉を下げる。
「情けない……な、……君にまで……厄介に、なるとは……」
 いつもより断然ゆっくりと紡がれるアーチャーの言葉は、掠れがちで声に張りがない。
「何かがあったのですか? 貴方がこれほど消耗するなど……。シロウにはきちんと話しましたか?」
 念のため、何か事が起こったのかをセイバーは訊いたが、アーチャーは僅かに首を振って否定した。
「…………ただの、供給不足だ」
「供給、不足? 供給の儀式に失敗しているのですか?」
「…………」
「アーチャー?」
「……儀式は……していない…………」
 セイバーは目を剥く。現界するために何より大切な魔力供給の儀式をしていない、とアーチャーは言う。
「そ、それは……、シロウから魔力をもらっていない、ということ、……ですね?」
作品名:サヨナラのウラガワ 2 作家名:さやけ