CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上)
暗闇の中からこちらへ向けて、小さな手が伸びているのを。
そして、手招きしているのを。
バリツは一度、斉藤を振り返る。
猿巨人は宣言通り、身もだえしつつ自身を取り込んだスライムを本気で飲み干そうと試みているらしい。激辛料理の早食いチャレンジに挑む芸能人さながらの表情だ。
だが分が悪いのは明白だった。窒息も時間の問題かもしれない。
再び、前を見遣る。
手招きはなかった。
だが依然として、真っ暗な深淵が口を開けていた。
この中に何があるのかはわからない。
何故このタイミングで、《小娘》のドアは独りでに開かれたのか?
疑問は尽きないが、もはや他の選択肢が浮かばなかった。
このピンチの中、もしそこに道があるというのならば――。
「乗ってやる……!」
いちかばちか、バリツは飛び込んだ。鉄臭く、薄暗い、レンガ造りの部屋へ。
作品名:CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上) 作家名:炬善(ごぜん)