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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(下)

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16、『毒スープ』エピローグ「Coming Up for Air」



「だからヤバいんや、アシュラフちゃんは――って、エドワードはん、こんなぶっとんだ話きいても驚かないんな?」

「いや、そりゃあ、『壁に大穴ぶちあける女の子』だとかよ、そんな話聞いて全く驚かないワケはないぜ? でもよ――むかし俺んちの近所にいた女の子も、色々ぶっとんだ子だったからなあ。そんなこともあるかなってよ」

「その女の子は、壁に大穴あけたり、キッチンで火遊びしたりしてたん?」
「えやえや、それとはちげえが……見た目はすごく可愛いんだが、なにやらオカルト方面の色々にハマっててな? 例えば、ある日の夜のことだ……」
「ある日の夜?」
「――いや……やっぱよそう。作業に戻ろうぜ?」
「えー、だから、その日の夜がなんなん? エドワードはん!」
「あー、えや、話したいのは山々なんだが――なんかふと、嫌な予感がしてな」
「よくわからんけど、まあええわ。――あれ? ってかエドワードはんは、日本生まれなん?」
「カナダ生まれの日本育ちだぜ?」
「うちの所長もオーストラリア生まれの日本育ちやから、なんか似てるなあ」
「そうか、奇遇だなあ」


少しだけ開いた窓の風に乗せられて、助手のタン・タカタンと、彼が応援として呼んだ配管工――「E・セブンケイド」というネームプレートの男性――との話し声が枕元まで届く。この当たり一帯は、元々静かな住宅街だから、なおさら声が通りやすいのかもしれない。


あれから二日後。
二人のスタッフが執務室の壁の修理に取りかかってくれる中、バリツはぼんやりと、寝室のベッドに横たわっていた。
もちろん、あれからずっとベッドで過ごしていたわけではなかったが……あの謎めいた嘔吐は結局翌朝まで続き、そのダメージは今なお癒えなかったのだ。食欲も全く湧かないし、熱も下がらず、体はやけにだるかった。

 結局アシュラフに本当に閉じ込められたバリツだったが、幸いにして寝室にスマートフォンがあったために、タン・タカタンに助けを求めることができた。

 何が起こったのかをかいつまんで説明したが――。

「所長、ついに頭おかしくなったん?」

 と一蹴されただけだった。
 まあ実際、何も知らないのであれば、それに超したことはないのだが……。

バリツはベッド上でスマホやノートパソコンを開き、探索を共にした斉藤やバニラと連絡を取り合っていた。

ただし、「小娘」の部屋での出来事について。
そして二人が知り得ぬうちに自身が受けた「エクストラゲーム」については……まだ説明できていなかった。

今の体調が故に、そして内容が内容だけに、自分から説明するのは躊躇われたのだ。そして生存した二人も、「小娘」の部屋についてあえて聞いてくることはなかった。

そもそも、いくら現実味を帯びていたとはいえ、本物の現実に戻った以上、悪夢は悪夢なのだ。例え――一生を不可逆的に変えてしまったとしても。


斉藤にSNSのダイレクトメッセージでコンタクトを取ったところ、彼もまた生還はしたものの人肉嘔吐に悩まされた様子だった。だが彼は、バリツと異なり、一晩経って以降は体調もすこぶる良いらしい。

また、あの世界で斉藤は猿の肉体を得ることになったが、撃ち抜かれたバリツの膝と同じく、目覚めた時には元通りの肉体だったようだ。
ただし気のせいか……日に日に筋肉と、体毛が増していくような気がするという。

《それって、マズくないか? 斉藤君……。》

《何言ってんだ! バリツ! あの夢で得た力が現実になるかもしれねえとかよ! 最高じゃねえかよ!》

 本人が良ければ良いのだろうか……?


脇のナイトテーブルのノートパソコンをふとみやると、バニラからの返信も届いていた。(斉藤と異なり、バニラはSNSは好まないようだ。)

 バリツと斉藤は人肉を嘔吐する謎の現象に襲われたが、どうやらバニラはそんなことは起こらなかったらしい。

《何故自分と斉藤は生還したのに、人肉を嘔吐するようなハメになったのだろう……?》

 バニラは疑問に答えてくれた。

《君だけの腕、じゃないといけなかったみたいだね。俺は俺の肉を入れたけれど、二人は二人の肉を入れてなかった。人肉を用いる条件は満たしていたけれど、不完全だったんだろうね。》

《左様であったか……。》

 バリツは少し悩んだが、ある文章を送信した。

《そういえば、バニラ君に謝らねばならないことがあるのだ。》

《?》

《斉藤君がスライムめいた何かに襲われていたあの時、てっきりバニラ君は斉藤君を見捨てて自分だけ抜け出そうとしているかと勘違いしてしまっていたのだ。疑ってすまなかった。》

 特に話すべきことでもないし、自分の胸の内にとどめておけばいい話でもあった。
 だが、体調不良による自制の緩みと、何はともあれ皆そろって生還できたという安堵の気持ちが背中を押したのかも知れなかった。

 少し間隔をあけて、返信が届いた。

《本を戻してダメだったらどうしようもなかったし、二人とも見捨ててたと思う。》

淡々とした一文に、バリツはあんぐりと口を開けた。
そのままバリツは、キーボードをタイプする。

《あ、そうだったのネ…^^;》

バニラとのやりとりはそこで途絶えた。
……かに思えたが、しばらく後、こんなメールが届いていた。

《バリツが話していた魔道書ってのは、今はどこにあるかわかるかい?》

 魔道書――?
 何のことかとバリツは訝るが、すぐに察しがついた。
尾取村の村長が所有していた代物に違いない。
 それは、バリツの邸宅の地下倉庫にて、今は厳重に保管されている。
 バリツは正直にタイプしかけたが――唐突な嫌な予感に駆られた。さりとて「すでに失われている」等々嘘をつくのは性に合わなかったバリツは、以下の様にタイプした。

《と、いうと……?》

 の一文だけ。
 どこか落ち着かない気持ちのまま返信を数分待った。
 そして届くなり、すぐにメールを表示する。

《いや、気にしないで。ありがとう。また近々、バリツの家にお邪魔すると思う。》

 バリツはその意味するところを訝ったが、無難に返信した。
 いつでも歓迎する気持ちは変わらなかったから。

《うむ。また会うのを心待ちにしているよ。》


 そうして一息ついたバリツは、あの悪夢を回想する。

 尾取村での怪異。
 猿夢での怪異。

 それらはなるほど尋常ならざる怪異だった。
 だが、これほどまでに自身の存在の危機に見舞われたことはなかった。

 前者では邪悪なる神の降臨は未遂で終わった。
 後者ではなるほど死の恐怖に魅入られたが、肉体の損壊はなかった。

 だが此度はどうだ?
 あくまで夢の中ではあったが、バリツは両方の脅威を確かに味わった。
 なんなら一度、本当の死を迎えたのだ。

 それだけではない。
 自身の存在が根本的に揺らぎかねない問題に直面したのだ。
 
 自身の記憶が……本来の現実とは乖離している。

 あの「幼女」による幻覚として片付けてしまえれば、どれほど楽だったろうか?
 だが、数日間かけて考えても、一度生じた違和感が消えることはなかった。
 恐らく……あれらは真実なのだ。