二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
自分らしく
自分らしく
novelistID. 65932
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

彼方から 第三部 第九話 改め 最終話

INDEX|3ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

「これだこれだ! やっぱりこいつだ!!」
 地面に投げ出されても、ノリコは小動物から手を離さなかった。
 苦しそうな鳴き声を上げられても構わず、更に力を籠めて、小動物を掴み続けた。
 ここで、手を離してしまったら、きっとまたテレポーテーションをされてしまう。
 今度は警戒されて、邪魔出来ないようにされてしまう。
「こ……この――」
 タザシーナの手が頭に伸びてくる。
「お放しっ!!」
 そのまま髪の毛を無造作に掴まれ、力任せに引っ張られた。
 ブチブチと、髪の毛が切れる音がする。
 ごっそりと抜けてしまいそうなほど、頭皮が痛む。
 それでも……
「やだっ!!!」
 ノリコは決して手を離さず掴み続け、眼の前にあったタザシーナの腕に、思わず噛み付いていた。
「きゃあっ!」
 その痛みに、彼女の手が緩む。
 ノリコは小動物を手にしたまま、タザシーナの腕の中から直ぐ様逃れ、距離を取るように離れていた。
 
「小娘っ!!」

 思わぬ反撃に苛立ち、言葉使いが荒くなってゆく。
 噛まれた腕に残った歯型を見据え、小動物を掴み身構えているノリコを、睨みつけた。
 何の『能力(ちから)』も持たない、戦う術など何一つ持たないただの娘……
 そうとしか思えないノリコの、予期せぬ反撃……そして、外見に見合わぬ行動力。
 ただ、大人しく護られているだけではない彼女に、言い知れぬ嫌悪が湧き上がってくる。


「あんたが【目覚め】でなかったら、殺してやるのにっ!!」
 

 綺麗に彩られた唇から吐き出されたその言葉には、彼女のノリコに対する『嫌悪』が、如実に表れているかのようだった。

          ***
 
 美しい顔を怒りで歪ませ、タザシーナの唇から放たれた言葉に……
 ……呼吸が止まる。
 心臓に痛みが奔る……
 まるで、鋭く尖った爪を持つ手で、握り潰されたかのように…………

   『ムキになったわね』

   『そう!! やっぱりそうだったのね!』

 タザシーナの言葉が、何度も頭の中に蘇ってくる。
 その彼女を見据える、イザークの焦ったような瞳も……

   ―― あたしが【目覚め】…… ――

   『【目覚め】が現れたって言うじゃないか』

   『花虫のいる樹海によ』

 ガーヤに預けられる前、化物の群れに襲われた山で一緒に小屋に逃げ込んだ、麓の村人たちの言葉が頭を過る。
 あの頃はまだ、やっと日常会話が出来るくらいまでしか言葉を覚えておらず、彼らの話の内容を、良くは理解できていなかった――出来ていなかったが……
 今なら――今は……

   『あなたが【天上鬼】!!』

 勝ち誇ったかのようなタザシーナの笑み、その声音。
 今まで見てきたことが、聞いてきた言葉が、話しが……彼女の言葉の正しさを、裏付けているように思えてならない。

   ―― イザークが【天上鬼】!? ――

 イザークの、変容した姿が浮かぶ。
 ……だから、なのだろうか……
 彼が――イザークが【天上鬼】と呼ばれる存在だから……
 だから、あのような姿に変容してしまうの、だろうか……
 ……そしてそれは、もしかしたら――
 いや、もしかしなくても……

 思い至ってしまった『事柄』に、体が震える。
 それが、疑いようのない『事実』であることに……
 知りたくなかった、受け留められようはずもない『秘密』に、ノリコは体の震えを止められずにいた。

    *************

「タザシーナ」

 彼女の名を呼び、不意に現れた男の人に驚き、ノリコは体をビクつかせた。
 良く見れば、この男性の肩にも、小動物が乗っている。
「お……おらのチモ、呼んだのはあんたか?」
 
 ――……誰?

 なまりの強い言葉遣い。
 ガタイは大きく、どことなく眠そうな印象を受ける風貌……
 テレポーテーションを終え地に着けた足からは、どすん……と、少し重そうな音がしている。
「い……いきなりいなくなったんで、おら、追って来たど。あんたの身に、何か起こったんでな……ないかって、気になって」
 少しどもったような口調は、彼の癖なのだろうか……
 その風貌と体格から受ける印象は、『おっとり』と言う言葉が、合っているように思える。
 とても、剣を手に戦闘を繰り広げるような、そんな印象は受けない。
 タザシーナはその彼を見上げながら、
「…………いいところに来たわ」
 薄っすらと微笑み、呟くと、
「そうよドロス」
 彼の名を呼び、色香を漂わせながらゆっくりと立ち上がった。
 淑やかに、胸元に白く細い指を当てながら、
「でもわたし……せっかくのチモ、あの娘に盗られちゃったの……」
 甘く――まるで頼っているかのように、訴えている。
 その上……
「ほら見て、いじめているわ! 捕まえてっ!!」
 ノリコが未だにチモを掴んでいるのを良いことに、『何もかも』、彼女が悪いかのように言い放った。
「え?」
 タザシーナの言い草に焦り、手の中で『キィキィ』と甲高い鳴き声を上げるチモを思わず見やる。
 事情を知らない者が見れば、確かに、いじめているようにしか見えないかもしれない……
 ドロスと呼ばれた男性の眼が、手の中で足をバタつかせて藻掻くチモに向けられる。
「う……」
 心なしか、表情が険しくなったように思える。
 太く、繋がった眉毛の下、小さな瞳が責めるような色を浮かべて、自分に向けられているような気がする……

「ち……ちが……」
 思わず否定しようとしたが、言葉にならない。
 身を護る為に取った行動なのに、どうしても、罪悪感が募ってくる。
「いじめたくて、掴んでるわけじゃない……放したらまた、連れて行かれるから……」
 信じてもらえないかもしれない……
 そう思いながら放つ言葉は、どうしても、言い訳がましくなってしまう。
 訴える口調が、弱々しくなってしまう。
 この二人は、どう見ても知り合い……多分、同じ仲間……
 それに、このチモと言う名の動物をとても大事にしているように思える。
 だとしたら……
 その大事なチモを『掴んで』いる、初めて会った見も知らぬ娘の言葉に、耳を傾けてもらえるとは到底思えない。
 案の定――――

「チモを放せ―――っ!!」

 ドロスは大声でそう言い放つと、見る間に形相を変えてノリコに掴みかかって来た。
「きゃーっ!!」
 怖かった。
 思わず、叫んでいた。
 どんな理由であれ、二人のどちらかにでも捕まったりしたら、どんな目に遭うか分からない。
 とりあえず、今この場は、逃げるしか選択肢はないのだ。
「やだーっ! 寄らないで―――っ!!」
 言われた通り、ノリコは力任せにチモを明後日の方向に放り投げていた。
「あ」
 投げられ、小さな鳴き声を上げるチモ。
「チモッ!」
 ドロスが、地面をコロコロと転がってゆくチモを追い駆けている間に、ノリコはその反対の方へ……細い木々が所狭しと乱立している林の方へと走り出していた。

「と……取り返したぞ、タザシーナ」
「バカッ!!」
 放り投げられたチモを、両手で優しく包むように持ちながら見せてくるドロスを、タザシーナは呆れたように、思い切り怒鳴りつけていた。